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第16話 人気者の欲しいもの
翌朝、月乃はある程度の時間で自分の部屋へと戻ろうとした。
しかし、休みだからと一夜が引き止めて
結局太陽がすっかり昇るまで一夜と過ごしてから
ようやく部屋への道を歩く。
すると、向かい側から歩いてきたのは朝陽で。
「月乃!よかった!さがしてたんだ!
おれさ、今日暇なんだ、バイトなくって!
月乃は、ひま?」
「え、ああ……まあ、やる事はない」
「じゃあ俺と出掛けよ!デート!」
「デートって、君な……」
言うが早いか、朝陽は満面の笑みで門で待ってる、
と言い残して走り去っていった。
去り際に、天は生徒会だって、と教えられたので
月乃は少し安心して部屋へと入る。
そして簡単に支度を済ませると、
朝陽の待つ門まで歩いていく。
「どこ行こっか、あ、昨日な、ごめんな、
あの後天にちょっと怒られてさ。
ていうか機嫌すっごい悪くて、天の」
「怒った……?
天が、君を?」
「うん。
ていうか、天は月乃の事で凄い怒るよ、
機嫌悪いと毎回、月乃がどうしたこうしたって」
初めて聞く事実に、月乃は少し戸惑う。
天は嫌味こそ頻繁に言うものの、怒る事はあまりないように思えていたから。
ましてや朝陽に怒るなど、想像がつかなかった。
「まあ、仕方ないんだけど……
ちょっと、嫉妬しちゃうな」
「嫉妬って、君がか?」
嫉妬なんて、いつも醜く抱いているのはこっちだ、と
月乃は内心で思う。
ただ朝陽には、性格ゆえかそれをぶつける気にはならないだけで。
それなのに自分に嫉妬なんてどういう事だと
少し前を歩く朝陽を静かに見る。
「一夜も天も、おれにキスなんかしない。
月乃は二人はよくてもおれだとダメだろ。
そんでさ、天は、月乃にしか独占欲出さない」
「だから、昨日のは君が不意打ちで無理やり……」
「じゃあ、するよ、って言ったら受け入れてくれるの?」
「……天にだって、不意打ちでされて拒む暇がなかっただけだぞ」
月乃の言葉に、朝陽は苦笑する。
そして、昼時で賑わうファーストフード店へと
月乃の腕を引いて入っていった。
「今日付き合わせたし、おれが出すよ」
「別にそんなのいい、俺は君と出掛けるのは好きだ」
「ははっ、それ凄い嬉しい」
きらきらとした笑顔を向けて、慣れたように注文を終わらせると
月乃を連れて奥の席へと。
それから、静かな声で話し出した。
「おれね、見ちゃったんだよ、あの時。
月乃が先生に何されてるか、
それから月乃が、泣いてたのも」
「……そうか」
「なんて声かけたらいいかわからなかった。
知られたくないって泣いてる月乃に、
見ちゃったなんて言えなくて、でも、
相談してくれたりとか、しないかなって」
「君らに相談するっていう選択肢がなかった。
俺はあの時、頭がいっぱいだったんだ。
それにもし相談したら、君らに被害が行きそうで怖かった」
周りの賑やかさに紛れて、二人にしか聞こえない会話。
昨日と違って穏やかに話す朝陽に、月乃はほっとする。
「おれ、ダメなんだよね、頼ってもらえないとか、仲間外れとか。
知ってると思うけどおれ末っ子でさ
兄ちゃん達とまあサバイバルな環境で育ったわけなんだけど
末っ子だからってやらせてもらえない事とか多くって」
「……逆だな、俺も一番下だけど、俺は姉貴達にこき使われてた」
「あーまあ、月乃の姉ちゃん達も兄ちゃんもキョーレツだからな!
あ、そんでさ、おれはせめて友達には頼られたいって思ってて……
だから頼られないと、なんで!ってなっちゃうんだよね」
最後のポテトに残念そうにする朝陽に自分のポテトをわけてやりながら
月乃はそれであんなに、と昨日の朝陽を思い出す。
怒るというより、泣きそうだった朝陽は
自分に頼られない事がそんなに嫌なのかと
そう思って少し反省する。
「それでさ、月乃は天が好きでしょ」
「っ、そんなに、わかんのか……」
「幼なじみだからね!
だから昨日、一夜にああいうことされても拒んでなかった月乃に
なんで~って思っちゃったんだけど……
でも月乃は一夜も大好きだからなあ」
「……待ってくれ、君、何が言いたいんだ」
この際、バレているのは無視しよう。
そう決めて月乃は朝陽に先を促す。
すると朝陽は、満面の笑みで一言。
「天と一夜との恋愛相談、おれにいっぱいしてね!」
「……、……」
それでおれも関係者だと目をきらきらと輝かせる朝陽に、
相談できない理由は君だ、と
月乃は声を大にして言ってやりたかった。
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