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第17話 甘美な誘惑※
あの後、朝陽と一緒にゲームセンターやいろんな場所をまわって。
日も傾いたあたりで寮へと帰ってきた。
朝陽が穏やかだったから、過ごす時間が楽しかったから、月乃はすっかり忘れていた。
もう一人、きちんと説明しなければいけない相手が居た事を。
「お前、どこ行ってたの。
まさかこんな時間まで一夜のとこに居たのか、
俺の事放っておいて」
「……ち、違う、朝陽と会って、遊ぼうって、言われて……」
「朝陽と?
ふーん、そっか。
じゃあ今度は俺と遊ぼうか、月乃」
部屋のドアを開けるなり、月乃は待ち構えていたような天に部屋の中へと引きずり込まれた。
そしてそのまま引っ張られたかと思うと
天のベッドへと無造作に投げられる。
いつかのように覆い被さってきた天の目は据わっていて少しも笑ってはいない。
朝陽が、機嫌が悪かったと言っていたのが頭の片隅に過る。
「その、君にも……ちゃんと説明する、から」
「説明?
ああそうだね、そうしてくれ。
じゃあ……実際にやってやるから、あの頃何されてたか言えよ、全部」
「……え……っ?」
「お前がどこをどう触られて、何をさせられてたか。
あんな酷いトラウマになるくらいだ、全部鮮明に覚えてるんだろ?
俺が同じようにしてやるから、言えって言ってんの」
強く顎を掴まれて、不機嫌な顔を近づけられる。
言えるわけがない、あの時された事なんて、
言うのもおぞましい記憶なのに、と
月乃は瞳を揺らしながら視線を逸らすが
天は不服そうにそれを見下ろしながら、
月乃の服へと手をかけた。
「この前は下だけ脱がしたっけな。
お前、体育の時もインナー脱がないんだって?」
「ゃ……っ、天、やめろ、っ、この前みたいな事、っ
してもいいから、上は…っ」
「……なあ月乃、勘違いしてるようだけど
お前にあるのは、所有者への説明責任だ。
やめろ、も、してもいい、も、お前にはないよ」
「……や、だ、お願い、だから……天……」
胸の下辺りまでたくしあげられた服に
月乃は珍しく泣きそうな顔で懇願する。
それを見て、天は先程よりかは機嫌が向上したのか
にまりと笑みを深めて月乃の耳元へと唇を寄せる。
「じゃあ質問だ、月乃。
お前はあの頃、あの担任に、ここから上は
触られなかったのか?
……ああ、言っとくけど、お前の嘘はすぐわかるからね」
「……、……っ……」
「嘘つきも、だんまりも、俺は大嫌いだなあ」
「……っ、さ、わられ、た……から……
けど、お願い、だから、脱がさないで……」
か細い声での懇願に、天は優しく笑って月乃の頭を撫でた。
許されたのか、そう思って、月乃は安心したような表情になったが、
優しくて甘い声で、天はそれを切って捨てた。
「お前に他人の手垢だらけの場所があるなんて、
俺は許すつもり、ないから」
「……っあ……やっ……!!」
「……ははっ。
ド変態な中学教師も居たもんだね」
がばりと、月乃の首もとあたりまでたくしあげられた服。
そして現れたのは、きめ細かな白い肌には不釣り合いな、胸に貼られた絆創膏。
服に擦れないようにと施されたそれに、
天は悪どい笑みを浮かべて上からすっとなぞる。
「っん、ん、っ……!」
「あいつからの3年分の開発の成果がこれか?
まあ無理もない、中学の頃のお前、
確かに変な気起こしてもおかしくないくらい……
汚してやりたくなる面してたよ」
「っあ゛!」
びっ、と、胸の尖りを覆うそれを
天は無遠慮に、なんの手加減もなく剥がす。
すると月乃は、それ以外はどこにも触れられていないのに
びくんと体を跳ね上げた。
「気に入らないな、お前の身体は俺の所有物なのに」
「……お、俺は君の友達、だけど……
そんな、上下関係なんかじゃ、ない……」
「友達が、こんな事するか?
一夜は……まああいつはお前が大好きだからな、友達じゃ、ないか。
朝陽とは、こういう事するのか?友達だから?」
「そ、んなのは、しないけど……
でも君とだって、こういう事する関係なんかじゃ……」
そこまで言えば、天は途端に表情を無くす。
それから、月乃と鼻先がくっつきそうな距離まで顔を近づけた。
「お前は俺が好きなんだろ、月乃。
俺はな、お前が俺以外の事で傷つくのも嫌がるのも、腸が煮えくり返るぐらい許せない。
お前を汚すのも傷つけるのも快感を教えてやるのも、全部俺じゃないと許さない」
「……そん、な……」
「ああ……そうか、お前は俺とこういう事する大義名分が欲しいのか」
「……そういうわけじゃなくて、ちょっと、落ち着いて話を聞いてくれ……」
過ぎた独占欲に驚く月乃に向かって
天はどこか納得したような表情をする。
そしてにやりと笑って、耳元で甘く囁いた。
「じゃあ付き合っちゃおうか、俺達」
「……えっ……?」
「お前の事は所有物だと思ってるけど、
一夜と付き合われるのは絶対に我慢ならない。
恋人にならないと所有させてくれないっていうなら
俺はお前と付き合ってやるよ、月乃」
それは、ずっとずっと、請い願っていた、望んだ関係。
けれど決してこんな形じゃない、これじゃない、と
あの時とは違って少しの幸福も湧かない感覚に
目を伏せて涙した月乃の脳裏には、
どうしてか一夜の顔が浮かんで消えなかった。
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