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第20話 自覚

    優しくするのはやめだ、と言っていたのとは裏腹に 天はあの後月乃の事を労りながら抱いた。 息が整うまで待ったり、終わった後は疲労から眠ってしまった月乃の身体の後処理をしてやったりと 普段の月乃への言動や行動からは想像のつかない行為。 「……ん……」 「ああ、起きた?  起き抜けに空気が悪くてごめんね」 しばらくして、夜も更けた頃に月乃が目を覚ます。 窓を開ければばれてしまうから、と 天は閉めきった部屋で煙草を吸っていた。 それに月乃は少し呆れたように目を細めたが、 自分の服がきちんと着せられている事に気づいて目を丸くする。 「これ……君がか?」 「他に誰がいるの?  ああ……起き上がらない方がいいと思うけど?  あの後結局何度も……って、遅かったか」 「~っ……!」 喉が乾いた、と月乃が体を起こせば、 ずきん、と強い痛みが身体にはしる。 そのまま体勢を崩してベッドから転げ落ちた月乃は 少しばかり恨めしそうな目を天へと向けた。 「明日の体育は見学しておきなよ、  お前のクラスはあるかどうか知らないけど」 「ねぇよ、体育は……って、おい、天っ!?  君、どこかおかしいんじゃないのかっ、  熱でもあるのかっ!?」 「落とされたいの?  ……いいからおとなしくしてろよ、水くらい持ってきてやる」 煙草を消した天は転げた月乃へと歩み寄ると、 優しく月乃の身体を抱き上げた。 所謂お姫様だっこというそれに、月乃は天に掴まりながらひたすら困惑する。 今までは、夢にも見れなかったような、そんな行動が 月乃に与えられていた。 「俺はね、月乃。  今……お前に対して歯止めがきかなくなってるんだ」 「はっ……?」 「お前が俺以外にどうにかされてたって知ると、  腹が立って仕方なかったし許せなかった。  今までは必死に誤魔化しててやったのに」 「君、本当に何言ってるんだ……?  お、俺の知ってる君は、朝陽が好きで……  俺の事は玩具だと思ってて、俺の嫌がる顔が大好きな……  俺に、優しくない……そんな……君、なのに」 優しくベッドへと下ろされて、優しく笑いながら髪を撫でられる月乃は 夢でも見ているのかと眉を寄せる。 しかし、天から与えられる温もりは紛れもなく現実で。 やがてミネラルウォーターを差し出されて 月乃は戸惑いながらもそれに礼を言って受けとる。 「本気で玩具だと思ってる相手に、  わざわざカツアゲから助けたり付き合おうなんて提案しないよ。  お前の事を独占したいのは本音だ、  一夜にだって渡したくない、渡さない」 「……けど君は、俺じゃなくて……」 「確かに、大切にしたい、幸せにしたい、笑った顔が見たいのは朝陽だ。  ……って、そうなろうとは、したよ」 「……した、って、どういう……」 言葉の途中で、天は人差し指で月乃の心臓あたりを軽く押さえた。 そして、顔を近づけて話を続ける。 「俺は、ずっと前に朝陽から告白されてる。  裏側の俺を好きって言ってくれた初めての相手だ、そりゃあ嬉しかったさ。  叶えてやりたかった、いい返事をしてやりたかった。  けどそうさせてくれなかったのはお前だよ、月乃」 「……、……っなん、で」 「朝陽を幸せにする自信はあったよ。  それでもずっと消えなかった、無理だった。  俺が嫉妬するのも、どうやっても自分のものにしたいのも、  誰にも渡したくないのも、全部全部、  お前相手にしか思えないんだ、俺は」 重い愛情が、一気に降ってきた感覚がした。 朝陽が嫉妬と言っていたのは、こういうことかと 月乃は戸惑いながら天を見る。 しかし天の顔は真剣そのもので、目を逸らしてくれない。 「俺が本当に好きなのは、お前だよ、月乃」 自分に向けばいいと、何度も願っていた感情。 けれど月乃は返事が紡げなかった。 ただ、その瞳が、天を見つめながら戸惑ったように揺れた。  

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