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第21話 交錯する感情

    「悪い……今、君にいい返事が、できそうにない」 数分間、たっぷりと間を開けて やっと月乃が返せた言葉がそれだった。 天は少し目を細めたものの、どこか諦めたようにため息をついた。 「ひとつだけ答えて。  お前……俺の事、好きじゃなくなったの?」 「ち、ちがう、そうじゃない……!  君の事は、ちゃんと好きなまんまだ……けど……」 「ああ、それ以上はいいよ。  一夜の事が気にかかるんでしょ」 図星だというように肩を震わせた月乃は 窺うように天を見る。 振り向いてもらった途端、なんて酷いんだろうと自己嫌悪もあるが、 このまま、一夜への気がかりを見ないふりして天と付き合うなんて、と その気持ちでいっぱいだった。 「そりゃあ、人からの好意に飢えたお前が、  あんなに眩しいくらい与えられたらオチるだろうとは思ってたよ」 「……今、君からの好意だって、眩しい」 「はは……今更だけどね。  あとは……朝陽の事も、心配なんだろ」 「……朝陽も、君を好きだったなんて知らなかった」 朝陽に告白されたと言った天に、 月乃は自分に相談しろと言ってきた朝陽を思い出す。 一体どんな気持ちで、と、そこまで考えたあたりで 天から優しく頬に触れられる。 「今度は……俺がお前を惚れさせる番かな」 「え……?」 「一夜よりも朝陽よりも、俺の事をとるように  お前をハマらせたら……付き合ってくれるだろ」 「それは……その……」 「誰かに好きになってもらおうと必死になるなんて、初めてだけどね」 へにゃり、と、天は今まで見せたことのないような そんな柔らかい笑いかたをした。 こんな顔も見せてくれるようになったのか、と 月乃は感動すら覚えながら 天に向けられた甘い感情を受け止める。 「今日だけ、一緒に寝てもいい?」 「君が、いいなら、いいけど……」 これが本当に天なのかと、思わないでもなかったが けれど甘美でたまらない現実に、 月乃は天の腕の中に引き込まれたままに目を閉じた。 「という、感じなんだ、けど……」 「月乃は本当、愛されてるよな~」 翌日、昼休みにきらきらした顔の朝陽に捕まった月乃は、 中庭で天との事を洗いざらい吐かされていた。 隠しておこうなんて気持ちは無駄で、 きらきらにこにこと詰め寄ってくる顔に 赤裸々な告白を余儀なくされる。 「君、天のこんな話聞いていいのか、  告白したんじゃねえの、天に」 「何年前の話してんだよ!  おれはもうとっくに吹っ切れてるの!  にしても、そっかあ、月乃モテモテだなあ」 「俺としては、君の方がいくらか魅力的だと思うんだけどな」 「んー、月乃って見てて征服してやりたくなるからなあ、そこじゃない?」 にまにまと朝陽に笑って言われたそれに、 月乃は不服そうに眉を寄せる。 そんなつもりで好きになられたのかと目で訴えるが 朝陽はどこか嬉しそうに笑うばかりだ。 「月乃が、そうやっていろいろ悩んでるのが  おれは嬉しいよ」 「……どうしてだ、悩みなんてない方がいいに決まってる」 「天が好きだから何されてもいいってなってた月乃より、今の方がいい」 「……ああ、そう……」 くすぐったそうに落ち着かない月乃に、 朝陽はまた嬉しそうに笑って。 それからすぐに別の友人のところへと向かった朝陽に 月乃は複雑そうにため息をつく。 と、そこに新たな来客が現れた。 「お前は、ここが好きだな」 「……一夜こそ、俺を見つけるのが大好きだな」 前に天からキスをされた時のように、 同じ場所で月乃を見つけた一夜。 月乃の隣へと腰を下ろした一夜は、 不意に月乃のインナーの首もとに軽く指をかけた。 「!……なんだ、どうした?」 「いや、気に入らないと思ってな。  今日は朝から、しきりに首もとを気にしたり  歩きにくそうにしたり……。  何があったか、わかってしまう自分が悲しい」 「君は、本当に俺をよく見てるな……」 「当たり前だろ、大好きだからな」 指に力を入れて、月乃の首もとを露出させた一夜は 現れた所有の痕に不機嫌そうに目を細める。 そして、おい、と止める月乃の声を軽く無視して 既存の痕とは逆側の月乃の白い首へと遠慮なしに噛みついた。 「~っい゛っっ!?ってぇ、なっ!  何すんだ君、ここ学校だぞ!」 「別に、いろいろと対等にしただけだ。  ああ、いや……まだ対等じゃないか。  放課後、俺の部屋に来てくれないか、月乃」 「……君、これ、脅迫って言うんだぜ……」 ほっそりした月乃の首を軽く掴んで、 人差し指で月乃の喉元を押しながら聞く一夜は 口元だけで笑っている。 それに対して月乃は、冷や汗を流しながら 喋りにくそうに返事をした。    

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