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第25話 お試し

    翌朝、結局足腰が立たなくなり一夜のところに泊まった月乃は 少しはまともに動けるようになる夕方ごろまで一夜の部屋に居た。 最中が嘘のように甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた 一夜に、やりすぎだと唇を尖らせつつも 身体を重ねた実感に照れたように顔を覆ってため息をつく。 「お前が可愛かったから、つい。  次はちゃんと優しくする」 「……次って、君なあ……」 「ははっ、そんなに頻繁に手は出さないさ。  ほら、そろそろ送ってこうか?」 「いいよ、君と一緒に戻ると面倒そうだ」 日もすっかり傾いた頃、月乃は重い腰を気遣いながらも部屋へと戻る。 結局、一夜に抵抗することはできなかった。 天が好きだと言っておいて、告白の返事を保留にしておいて、 それでいて一夜とあんな事を、と ドアノブを捻りつつも複雑な自己嫌悪に襲われる。 「ただいま……」 「遅い」 「わ、悪い……。  一夜と話が盛り上がって、そのまま泊まった……」 そろりとドアを開ければ、ドアのすぐ前に天が立っていて。 腕を組みながら睨んでくる様子に やっぱり怒っている、と冷や汗をかく。 しかし、天は腕組みを解いたと思えば、 月乃を自分の腕の中に抱き寄せた。 「そ、天……?」 「……一夜のところだとは思ってた、一夜と……  大体何があったかも察しがつく。  別にその事を怒るつもりはない、俺はお前の……  恋人でも所有者でも、ないから」 「……悪い……」 「それでも、泊まるなら一言くらいくれ。  お前に何かあったのかとか、俺と……  顔を合わせるのが嫌なのかとか、そんなことを、  一晩中ずっと、考える羽目になった」 前までの天なら、ここで怒られて酷いことをされていたのだろう。 けれど天は、弱々しささえ感じる声で月乃を心配してくれた。 それにびっくりしながら、もう一度悪い、と謝ると 天は月乃をベッドまで誘導する。 「…………あの、今日は、その、身体がもたないぜ?」 「……お前、俺がヤる事しか脳のない猿だとでも思ってんの?  そんな腰庇ってますって感じで過ごされても困る、  介抱してやろうとしてんの、こっちは」 「介抱っ!?き、君がかっ!?」 「お前さあ……。  俺、お前に告白したんだよ、恋人になりたいの。  俺のことなんだと思ってんの……」 はあ、と、大袈裟なくらいため息をつきながら 天は月乃を優しく寝かせる。 そしてベッドの縁に座ると、髪をすくように頭を撫でた。 「なあ月乃、明日空いてる?」 「明日……は、特に予定もないけど」 「デートしよっか」 「……ああ、出掛けるのか。  朝陽と一夜の予定も聞いておく……」 「デートっつってんだろお前はトンガ出身か何かか?  監視役二人つけなきゃデートできないのか?」 月乃の額をぺしんと叩きながら、天は不機嫌そうにつっこむ。 それに対して君は博識だな、などとずれた返しをした月乃は再び額を叩かれた。 「試しに俺と二人きりで出掛けろって言ってんの。  どこ行きたい?希望くらい聞いてやるけど」 「……図書館か、本屋」 「だからデートだって言ってんだろ何だその選択肢。  本屋も図書館も放課後いつだって付き合ってやるから、  せめて休日にしか行けないようなとこにしろ……」 疲れたように額を押さえた天に、 月乃は難しそうな表情をする。 それから、天をちらりと見ながらまた話し出す。 「外にいくくらいなら、部屋で読書がしたい」 「……だからぁ……!  お前そんなだからろくに彼女もできずに  男にばっかモテて手ぇ出されまくって  童貞引きずってんだよこのクソ童貞が!」 「なっ……!  君いくらなんでもデリカシーなさすぎないか!」 「知るか!  こっちがお前尊重してしおらしくしてやってたらクソみてぇな意見出しやがって!  もういいお前は何も考えずに明日の予定だけ空けとけ!  絶対ぇ外で楽しませてやるからな!  いいか一夜や朝陽と予定入れんなよ!!」 ぎゃんぎゃんと多少の言い合いになりつつ、 月乃は天に押し負けて了承してしまう。 完全に口の悪い天は久しぶりだなどと呑気に考えて それから明日は早く起きようと目覚ましを設定しておく。 「あ、天、明日大体いくらくらい要るんだ……」 「……お前、ほんともう黙ってろ」 夜も近くなり、静かになった部屋に 疲れたような天のため息が響いた。  

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