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第26話 2
「なあ月乃、気のせいじゃなきゃ、
お前のそれ……ほとんど部屋で着てるやつだよな」
「そうだけど……なんだ、何かおかしいか?」
「……だからデートだっつってんだろ!
ちょっとは気をつかった服とかねぇのかお前は!
近所のコンビニに飯買いにいくわけじゃねぇんだぞ!」
翌日、着替え終わった、と言う月乃に
さあ出掛けるかと天が月乃を見やると、
ほとんど部屋で見るような部屋着同然の服装で。
思わず自分の普段作っているキャラも忘れてつっこめば、困惑したような月乃。
「君がその、期待してるとこ悪りぃんだけど、
俺、部屋で着てるやつ何着かしか持ってねぇよ……」
遠慮がちに言う月乃に、天はがっくりと肩を落とす。
ゆるっとしたラフな服装の月乃に対して天は、
おしゃれに気をつかっている、と
ぱっと見て思うようなきちんとした服装で。
多少は申し訳ないと月乃は思うが、
けれど物理的に仕方ないのだからと開き直る。
「……お前の服装を否定するわけじゃないんだけど……
ちょっと、こっち来て着替えて。
大体の体格似てるだろ」
「き、君の服はやたら素材がいいから……!
汚さないか気が気じゃなくなって困る……」
「……汚していいよ、別に。ごめんな、細かくて。
けど、俺なりに考えた場所だから、
やっぱりちゃんとデートっぽくしたい」
「…………悪かったよ。
今度から君と出掛ける時は新しい服買っとくから」
首のきちんと隠れる服で、それでいてきれいめの服を
天に着せられながら、月乃は少し反省する。
こんなに楽しみにしてくれていたなんて、と
多少気恥ずかしい気持ちもあったが
カジュアルなネクタイを締めてもらい着替えが完了すると
今度は無造作にしていた髪をいじられた。
「……ん、こんなところかな」
「君、器用なんだな。
あんまり俺じゃないみたいだ」
「普段からこのくらいしとけば?
周りの目の色変わってくると思うけど」
鏡をまじまじと見ながら感心する月乃に
天は勿体ないと苦笑する。
鏡に映っているのは、まるでモデルのようになった月乃で。
顔立ちがはっきりするような髪型も、
普段からは想像し難いかっちりとした服装も。
全てが新鮮で、月乃はまるで自分じゃないような錯覚に陥った。
「ほら、行くよ月乃」
「ん……ああ、お待たせ……?」
そしてようやく準備を終えた月乃と天は改めて寮を出る。
途中、あれは誰だ、黒崎か、うそだ、などと
あながち錯覚でもなさそうなひそひそ話が聞こえてきたが
二人とも素知らぬふりをして門を出た。
「さて、月乃。
今日はいっぱい楽しませてやるから、期待してて」
「君と出掛けるのはいつも嬉しいのにか?」
「そうだよ。
お前はいつもそんなに笑わないけど、
今日は違うからね」
へにゃりと、いつか見せてくれた気の抜けた天の笑顔に
月乃もつられて嬉しそうに笑った。
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