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第27話 3

    天に連れられた月乃は、普段は決して来ることのない 展示館のような場所へと来ていた。 絵画、アンティーク雑貨、アクセサリーなど、 レプリカがほとんどだが上品な物が並ぶそこは、 確かに月乃の普段着では場違いになりそうでいて 高校生には少し不釣り合いな気もしたが 不思議と気まずさや緊張はなかった。 「君、普段からこんなところ来るのか」 「そんなわけあるか。  ここは展示物を順番に観ていくと、  プレートに書いてある物語が完結するし  いろんな予備知識も得られるんだ、お前が好きそうだと思って」 「へぇ……そんなものがあるんだな」 確かに、展示物ごとにナンバリングがしてあり プレートにはファンタジー小説にありそうな字体で 少しの長文が書いてある。 月乃はバッグから眼鏡を取り出すと、 きらきらと顔を輝かせてそれを追った。 アクセサリーや絵画は元々興味の範囲外な月乃だったが、 オプションとしてちりばめられている仕掛けや 雰囲気に、すっかり夢中になって順路をまわった。 「すごいな……外国に来たみたいな雰囲気だ」 「まあね。  外国の有名なファンタジー小説家が関わったらしいし、  建築もそういった国を参考にしたって聞くよ」 「俺は絵の良し悪しも、アクセサリーのセンスもよくわからないけど……  こういうのは、悪くないな」 「まあ、兄貴に一回連れてきてもらった時に、  もう一回来るならお前とかなって思ってたよ」 優しく笑った天は、月乃にいろいろと解説しながら先へと進んだ。 楽しませる、デートらしい場所、なんて言っていたから もしかしたら人の多いレジャー施設なんかに連れていかれると思っていたが こんな素敵な場所だなんて、と月乃は楽しそうに笑う。 「図書館とか、家での読書もいいけど……  こうやって体感する知識も楽しいだろ」 「そうだな、ほんと……  君に連れられなかったらずっと知らなかった」 最後まで物語を追った後、 ファンタジーに寄った剣や鎧、杖などの レプリカ展示も見て満足したような月乃を 天は手を引いて次の場所へと案内する。 「お腹へったでしょ、そろそろご飯にしよっか」 「え、ああ……。  でも、君、ここ……高校生が寄るとこか?」 「テーブルマナーなんかは全然ないから安心しなよ、  それに知り合いの店だからね、大丈夫」 天が案内したのは、おしゃれな隠れ家的レストラン。 外観だけで高級そうなそこに、 月乃は少し臆してしまうが、天はなんでもないように そこへと手を引いて入っていく。 「いらっしゃい……ああ、天さん。  珍しいですね、お連れ様ですか」 「お久しぶりです。  今日は友人を連れてきました……ああ、そうだ、  あんまり気取ってない友人なので……」 「ふふ、大丈夫ですよ。  料理は好きに食べるのが一番です。  それにしても綺麗なご友人ですね」 入るなり、優しそうな青年が二人を出迎えた。 二人以外に客は疎らで、店内は心地よい静かさだ。 テーブルにつくと、優しい声でおすすめやメニューの説明があり いまいち決まらない月乃のぶんも天がてきぱきと頼んでしまった。 「……こういうところを見ると、  君との育ちの違いを実感する」 「ちょっと家が見栄っ張りなだけさ。  確かに兄貴の取引先ではあるけど  それ以前に兄貴とは同級生だった人だからね、  そっちでの知り合いの方が近い」 「ふーん……そういうものか。  俺はそこまで兄さんと関わりがないからな」 「お前んとこも、大概普通じゃあないと思うよ」 そんな話をしているうちに、サラダや前菜が運ばれてきて。 その後も程々に談笑しながらメインやデザートまで堪能した月乃は ものすごく自分の好みの味だった事に驚いた。 「天は、俺をよく知ってるな」 「何年幼なじみしてると思ってんの」 シェフである青年に礼を言って、 さっさと会計をしてしまった天に慌てて払うと食い下がりながらも、 高校生にしては高い支払いに月乃は甘える事にした。 それから、天と服を見たり本を見たりといろいろな買い物をして二人で寮へと帰る。 「……君と出掛けるのはいつも嬉しかったけど、  今日は凄く楽しかった、ありがとう」 「それはよかった。  お前の好み、凄く考えた甲斐があったよ」 「そんなに考えてくれたのか」 「そうだよ。  俺は一夜と違って、お前の事をよく理解してない。  お前の感情も聞こえないし、お前をリラックスさせてもやれないからね」 不意に立ち止まって、天が月乃へ真剣な目を向ける。 それに月乃も、どことなく緊張して天へと向き直った。 「なあ月乃、俺はお前に、幸せを与えてやれるかな」 「え……?」 「いつか、一夜みたいに、  お前を底から理解してやれるかな」 少しだけ寂しそうな天に、 月乃は少しの間を置いてから、 珍しくふにゃりと笑った。 「おかしいな、今日は俺をたくさん笑わせてくれるんだろ。  君が笑ってないと、笑えないぜ」 「月乃……」 「君は知らないんだ、  君が俺を気にしてくれるだけで、  俺がどんなに幸せになるかを、知らないんだな」 「……ああ、そうかも。  だから……これからいっぱい、教えてくれ  お前の好みも、感情も、全部」 やっと眉を下げて笑った天に、 月乃は幸せそうな笑顔になった。   

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