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第28話 溝
「黒崎、ちょっといいか。
テストの後の面談の事なんだが……」
「ああ、はい……」
週明け、月乃は担任に呼び出された。
素直にそれに従うが、三者面談という言葉に気が重くなる。
まだ二年生なため、方向性を決めるためというニュアンスではあるが
家族の同席が必須となるそれに
月乃の顔はかなり曇る。
「本当にいいんだな?」
「……はい。
きっと家族も、いいって言うと思います」
職員室で数分間担任と話をして、
それから月乃は教室へと戻る。
クラスのほとんどがテキストを広げている光景に
そういえば今日からテストだったなと思い至りながら
月乃は普段と変わらず読書を始めた。
「月乃、テストどうだった?」
「別に。
いつも通りの感触だったぜ、
君こそ赤点の心配はどうなんだ」
「今回は大丈夫!
天も月乃もたくさん教えてくれたからね!」
テスト1日目を終え、朝陽に話しかけられた月乃は
心なしか元気のない様子で受け答えをする。
それに朝陽は苦笑するが、月乃はどこか意識が逸れていて。
と、不意に月乃の机に影がかかった。
「テストどう、なんて黒崎には愚問だもんなあ、
勉強してませんみたいに嫌味ったらしく読書なんかしてさ」
「そうだよ、いつも余裕そうだもんな」
「……実際勉強は課題程度しかしてない。
俺は点数にこだわりなんかねぇから、
平均点がとれそうならそれでいいだけだ、
て言うか君ら誰だ、鬱陶しい」
それは確か、以前月乃に絡んできた柴田のグループにいる生徒達で。
不穏な様子に臆する事もなく相手を睨んだ月乃に
相手も苛々とした様子で舌打ちをした。
それを見て、堪らなくなったのは朝陽だ。
「ちょっと、なんなんだよ。
月乃は実際頭いいだろ、突然何絡んできてんだよ」
「いやだってさあ、こいつさっき職員室で呼び出されてたんだけど、
その時聞いたことに興味あって」
「…………普段は話もしないのに、
人の弱味を突くのには必死だなんて、君らよっぽど暇なのか。
そんな暇があったら少しは勉強したらどうだ、
俺と違って君らは出来がよくないんだろ」
「……月乃?
おまえらも、やめろよ。
月乃、聞かれたくなかった事かもしれないだろ」
苛ついた表情から一変して、
にやにやとたちの悪い笑いを隠せない二人組は
朝陽の制止も構わず、クラス中に聞こえるような大声で話を続けた。
「黒崎お前さあ、出来が悪いからって
卒業したら家族に捨てられんだって!?
大変だなあ、期待値の高い人生ってさあ!」
「……なっ……お、お前らやめろよっ!
そんなの嘘に決まってるだろ、
ていうか月乃傷つくだろ、やめろ!」
「…………いいよ、朝陽。
別に嘘でもないし、傷ついてもない。
それにクラスで遠巻きにされるなんて、今更だろ」
「つ、月乃っ、でもっ!」
不安そうな、納得のいかなさそうな朝陽の頭を
安心させるように数度優しく撫でてから
月乃は帰り支度をして寮へと帰っていった。
クラスの多少のざわめきと、
二人組、そして少し遠くにいた柴田は
そんな月乃の反応にひどく面白くなさそうな顔をしていて。
朝陽はそれに対して不安でいっぱいだった。
月乃とクラスメートの間に、はっきりと溝が出来てしまったような、そんな気がした。
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