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第33話 平行線上の感情

    「君らって、昔からなんとなく思ってたけど  ウマが合わねぇ、よな……?」 呆れたような顔をした月乃は、 目の前で静かに睨みあう天と一夜を見てため息をついた。 「月乃は知らないんだよ、一夜がどれだけ  お前に執着してて、ヤバイやつなのか」 「そっちこそ、どれだけ束縛が強くて  危ない奴なのかは、まだ知られてないんじゃないか」 放課後、今日まで部活がない日なんだ、と そう言って一夜が月乃を部屋に誘うのと 生徒会の仕事がないからと天が月乃と過ごそうと 部屋に早々と戻ってくるのとが ほとんど同時だった。 そして、当の月乃はというと バイトが休みである朝陽と部屋で話をしていたわけで。 図らずとも集まった幼なじみに不思議な気持ちになりつつも 月乃は天と一夜を放置気味に、朝陽とじゃれている。 「あ、そうだ月乃、夏休み海行こうよ」 「海?  ああ、夕方の海は好きだ、綺麗で」 「ええっ!?  海は昼間の真っ青なのがいいんじゃん!  あっ、そうだ夏前に海パン見に行こうな」 「んー、別にいいぜ。  今のところ夏休みに予定もないしな」 足の間に朝陽を座らせて、後ろから抱き込むような形で 朝陽の頬っぺたを伸ばして遊んでいる月乃は どことなく楽しそうで、一夜と天は、はた、と 動きを止めて二人の前に来た。 「待ってそれ俺もいく、ていうか俺の家の  プライベートビーチ使おう、別荘に泊まろう。  水着の月乃はあんまり見せたくないけどパーカーはちょっと勿体ない」 「俺もいく、夏休みは予定があんまりないし……  朝陽や月乃と海へいくのは楽しそうだな」 「もちろん!  4人みんなでいこうな、ていうか天の家の別荘いいなあ!」 「……いいけど、なんか……  君らってさ、昔からそんなに露骨に  仲が悪かったんだっけ?」 二人を見て月乃がそうつぶやくと、 一夜と天、それから朝陽は、何やら目配せをする。 「月乃は自覚ないんだろうけどさ、  すごいんだよ、月乃の事に関してのこの二人。  天は月乃がどうしたこうしたって  月乃の事に関しては凄い気にするし」 「一夜なんか顕著だよ。  月乃より勉強できるくせに、  月乃よりできないふりして月乃の事励ましてたんだよずっとずっと。  執着心がやばい、えげつない」 「心外だな、月乃にご褒美がもらえるっていうなら  前からもっと頑張ってたさ。  頑張る気がしなかっただけで、  実際月乃よりも成績も頭も悪かったよ」 はあ、と、月乃がため息をついてしまうのも仕方ないほど 月乃に偏った理由の数々。 最近、本当に素直に天は月乃への想いを言うようになった。 けれど月乃は、それに比例するように気が重くなってしまう。 嫌なのではなく、ただ不釣り合いな気がした。 「なあ月乃はさ、  今の時点で天と一夜、どっちのが好きなの?」 「はあ?  ……いや、そんなん決められねぇって、  この前も言ったばっかりだ」 「じゃあ、どっちも恋愛として好きなの?」 「……あのな朝陽、君もそうだけど……  天だって一夜だって、人気者で友達も多い。  人間的に俺とは不釣り合いだから……  その、恋人なんて大それたもんは望んでない。  本当に現状で満足なんだよ俺……」 にこにこと二人に聞こえないように小声で聞いてくる朝陽に、 同じようにひそひそと小声で返す月乃。 その答えに、朝陽はどこか納得いかなさそうにしていたが しかし月乃がへらりと笑ったからそれ以上は何も言わなかった。 「でもいつか、選ばないといけないだろ」 「……いつか、二人に俺以上に想える相手ができたら  そこまででいいよ、俺は。  今で凄く幸せだから、勿論、君との関係も。  だから正直な……変える気が、あんまりない。  一夜と天のどっちかが悲しむなんて、嫌なんだ」 難しい顔でそう聞いた朝陽は、 幸せそうに笑う月乃に、目を見開いてしまった。 このままではずっとずっと、この三人は 平行線のままなんじゃないかと、 そんな予感がして、悲しそうに眉を下げた。 いつか、月乃以上に、なんて そんな相手現れるわけがないのに、と 心のなかいっぱいにそう叫んだ。     

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