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第35話 犬と飼い主

    「おはよ~月乃、今日も顔綺麗だね」 「……あ、朝陽?  君、どうした、その……後ろの、二人」 週明けの朝、教室で読書をしていた月乃のところへ 登校してきたばかりの朝陽が挨拶に来る。 しかし、なんだか朝陽の様子がいつもと違っていた。 いや、様子が、というよりかは、 朝陽の後ろに見覚えのない二人が居た。 「え、ああ……ははっ。  なんか、バイト先で超なつかれた……」 「朝陽くん誰これ、友達?  何か暗そう~俺合わないかもしんねぇ」 「顔確かに美人、わりと好みかも。  眼鏡外していい?あ、すごい好みドンピシャ。  なあなあ一回ヤらせてくんない?」 「……朝陽、君には悪いけど……  俺、嫌いかもしれない、この二人」 朝陽の後ろに居たのは、一人は制服をゆるく着崩している 金髪の軽薄そうな生徒で、片手でずっとケータイをいじっている。 もう一人は、胸元を開けて制服を着崩していて 片目が隠れている黒髪の、どこか色気のある生徒で。 月乃に顔を近づけたかと思うと 読書中にいつも月乃がしている眼鏡を勝手に外し その顔を見て舌なめずりをしてきた。 それに、生理的に合わない、と察した月乃は 警戒したようにその二人を睨んだが 二人はそれぞれ態度を変えることはない。 「ほらもう、二人とも教室戻れって。  それから月乃に変なちょっかいかけんなよ、  月乃は繊細なんだからな!」 「はいはい、わかったわかった。  つーか興味ないから大丈夫だって朝陽くん。  だからそんなに睨まないでよ」 「俺は興味あるけどね、名前は月乃っていうの?  連絡先教えて、いいだろ?」 「俺も君らに興味はないし連絡先も教えない、  教室に戻ってくれ、読書の邪魔だ」 ばちり、と、金髪と月乃の視線がかち合った。 それまでずっとケータイに向いていた意識は 月乃に向き、そして盛大な舌打ちをされる。 「俺、反抗的な奴すっげえ嫌い」 「そんなに嫌いになるほど興味持ってくれたのか。  君は意見が変わりやすいんだな」 「……泣かすぞテメー」 「君に泣かされるほど涙腺は弛くない」 本へと視線を戻し、そこから外さない月乃に 金髪のフラストレーションが目に見えて溜まった。 そして金髪が朝陽に敵意のある手を伸ばそうとした時 その手首を朝陽が強く掴んだ。 「千風、やめろって言ってるだろ!  風磨も、月乃に変なちょっかいかけんな、  おれ、怒るからな!」 千風(ちかぜ)と呼ばれた金髪と、 風磨(ふうま)と呼ばれた黒髪は、 朝陽のその言葉に慌てたようにそちらに視線を向ける。 そして、二人ともまるで叱られた犬のようになってしまった。 「朝陽くんごめん、もうしない」 「ごめんって朝陽くん、機嫌なおして、ね?」 背の高くひょろっとしている二人がそうやって 朝陽に謝る姿は、まるで大型犬と飼い主のようで。 そして月乃は、なんだか面倒くさそうなそれに 一瞬だけ視線をやって、小さくため息をついた。  

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