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第36話 2

    朝陽になついていた二人を見送った月乃は 教室での読書を再開した。 そしてそのうちに授業も始まり 移動教室のために廊下を歩いていた時の事だった。 「なあ」 「……なんだ君、こんなところで」 後ろから声をかけられて振り返ると 確か千風と呼ばれていた金髪の方がそこに居た。 月乃が仕方なく千風と向き合えば 千風は焦ったような、不安そうな顔で 月乃の手首を掴む。 「朝陽くんがさ、さっき、顔怖い奴に連れてかれて……」 「……朝陽が?  知り合いとか友達じゃねぇのか、  朝陽は顔が広いし」 「そんな事ねぇよ、あいつヤバいって有名な三年だし、なあ、ちょっと来てくれよ」 「……、……わかった、案内してくれ」 朝陽が呼び出された、とは 俄に信じがたい事だったが、しかし移動教室は 友達の多い朝陽とあまり一緒に行かない。 だからこそ完全な嘘だとも思えず 月乃は千風に連れられるままについていった。 「ここなんだけど」 「……空き教室?  本当にこんなところなのか、  もっと外とかそういうところじゃ……」 「…………うっせーなあ、  いいからさっさと入れよ」 「な……っ、うわ、っ!?」 千風を訝しげに窺うと、 先程までの不安そうな様子は消え 舌打ちをした千風は月乃を空き教室の中へと 扉を開けて背中を突き飛ばした。 突然の事で受け身のとれなかった月乃は そのまま空き教室の床に転がってしまう。 「っ……!  君、嘘ついたのか……!」 「朝陽くんがピンチの時にお前なんかに頼るかよ。  ああ、それよりもほら、自分の心配すれば?」 「は……?」 「浅原、協力してくれてサンキュー。  これ約束の報酬な」 教室の奥から出てきて、千風に数枚の千円札を手渡したのは 同じクラスで月乃をよく思っていない柴田だった。 そしてよく目を凝らしてみると、 いつかクラスで月乃に絡んできた二人。 嫌な予感がした月乃は逃げようと身体を起こすが 後ろから歩いてきた二人にそれぞれ肩を押さえつけられてまた倒れてしまう。 「じゃあね、朝陽くんには上手く言っとくよ。  一時間、精々楽しんで」 「~っ!!」 ぴしゃりと扉が閉められ、 柴田が鍵を閉める光景を、月乃は絶望を感じながら 蒼白な顔で見ているしかできなかった。  

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