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第37話 トラウマ
「なあ黒崎、お前最近調子乗りすぎなんじゃねえの」
暗い教室で、月乃は柴田に見下されながら
柴田の取り巻き二人に押さえつけられていた。
これからふるわれるのが暴力なのか何なのかは
まだわからかったが、どちらにせよよくない事だと
月乃は震えを必死に隠す。
「君らと関わった覚えもねぇし、
少なくとも目立たず過ごしてるつもりだ」
「……ムカつくんだよ、お前。
陰キャラのくせしやがって朝陽とか王子とか、
あと駿河とかさ、カースト上位の奴にばっか囲まれやがって」
「……三人とも幼なじみなだけだ、
別に取り入ったり媚売ってたりするわけじゃねえ」
「どーだか!
何かサービスしねぇと、お前みてぇな
付き合って何のメリットもねえ奴と
いつまでも仲良くしてるわけねえだろーが」
少し身体を起こされ、座るような体勢にされたかと思うと
びりびりという音を立てて乱暴にシャツを破り脱がされる。
突然の事に月乃がついていけず目を丸くしていると
首まで隠れるアンダーに柴田や取り巻きがにやにやと
嫌な笑いを隠せないでいるのがわかった。
「……ま、て、悪かったから……
好きなだけ殴っていいから……そういうのは、
やめてくれ……頼むから……」
殴る蹴るの暴力をふるわれると思っていた、
耐えたら終わると、心のどこかでそう諦めていた。
けれどまさか、柴田達がしたい事は……
そこまで考えて、月乃は顔面蒼白で不安げに瞳を揺らす。
天でも一夜でもない手が服に伸びてきて、
嫌でもあの頃の担任との行為が甦る。
「体育とかさ、絶対脱がねぇから……
お前、あの三人に身体でサービスしてんじゃねえの?」
「そんなわけ、ないっ……!
いやだ、やめてくれ、っ……」
「ははっ、こいつ泣きそうじゃん!
よしよし怖いねえ、優しく脱がしてあげようねえ」
「やだ、嫌だ、やめろ、だれか、誰かっ……!」
節くれだったシワの多い手、下卑た笑いを浮かべる
父親と変わらない年代の顔。
目の前に居ないはずの存在が、
どうしてもそこにいるようで、肌に触れているようで
月乃は混乱で上手く言葉が紡げない。
インナーをたくしあげられ、白い腹が晒され、
柴田の機嫌の良さそうな口笛が聞こえる。
「誰も来ねえんだから、
諦めて俺らにもサービスしろよ」
そうして言われた言葉に、
月乃は絶望を感じ、怯えた様子で目を閉じる。
しかし、そんな時だった。
「ここ、俺のお気に入りの場所なんだわ。
だから、あんまりイカ臭くしないでくれる?」
「……っえ……?」
「っはあ!?な、なんでっ……!」
カチャカチャと音がしたあとに
からり、と扉が静かに開いて、
そこに居たのは風磨、と呼ばれていた黒髪の生徒だった。
鍵を閉めたはずなのにどうして、と
動揺する柴田をよそに、風磨は無言でその光景を写真におさめた。
「凄いな、どう見たってレイプ寸前だ。
ま、人生終わりたくなかったら俺の昼寝スポットから立ち去ってね」
ゆるく口端を上げながらそう言う風磨に、
柴田達三人は悔しそうに走り去っていく。
そして風磨は、残っている月乃を助け起こそうと
手を伸ばしてやったのだが、その手は強く叩かれてしまった。
「……痛って……何、お前、助けてやったのに……」
「いやだ、やめろっ、なんでっ!
もうアンタとは関わりないはずなのにっ
三年間誰にもっ、言わなかっただろっ!
そしたら卒業までにしてやるって!言ったのに!
なんでここにいるんだ、なんでまだ、っ!
なんでっ!!」
「……は?
ちょっと、なあ、なんか勘違いしてるみたいだけど……」
「もう俺に、関わらないでっ、浅原先生っ!!」
「っ!!
……、……こいつ、もしかして……」
パニックになって泣きじゃくる月乃を
抱え込んで押さえ込みながら、
月乃から出た名前に風磨は驚く。
そして、何かの確信を得たように月乃を見てから
ひとつ頷いて月乃を抱えあげた。
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