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第38話 2

    「あ、気がついた?」 ふわりと香る、男物の香水のにおいに月乃は目を覚ます。 すると、そこは見覚えのない部屋で、 しかし部屋のつくりからして寮のようだった。 そして、かけられた声に目線をやると ベッドに座った風磨が月乃を覗きこんでいた。 「……どうして……」 「あらま、何も覚えてない?  せっかく可愛い後輩を助けてあげたのに」 「……俺、柴田達に、呼び出されて……」 「そうそう、レイプされそうになってた。  君の顔綺麗だもんね、男子校に居ると  危なさそうな顔してる」 すっ、と頬に手を伸ばされて撫でられ 月乃は風磨をじっと見た。 前髪で隠れている片目が、下から見ているため 見えてしまっていた。 そして、その目を覆うひどい、火傷痕も。 「……おや、引かないの、月乃くん。  珍しいねえ、これ見て動揺しないの」 「身体を見て引かれるのは、しんどいんだ。  俺もそういう部分があるから、理解してるつもり。  それに、そういうのは、  いつまで経っても治らなくて、痛いんだ」 「……、……ねえ月乃くん、  前髪、どけてコレ見てみてくれる?」 じっ、と視線を寄越されながら言われ 少し身体を起こして、月乃は風磨の前髪をどける。 幸い眼球にまでは至っていなさそうだが ひどい火傷をした瞼のせいで、ほとんど開かない瞳。 「これね、月乃くんと同じ人にされたんだよ」 「は……っ?」 「俺、浅原風磨っていうんだ、三年生。  君に散々セクハラしてたエロ教師の、息子だ」 「……あ……っ」 頬を手のひらで包まれ、どこか寂しそうに笑われる。 どうしてそれを、と言いかけて 月乃は風磨に額をこつん、と合わせられた。 「ごめんね……。  あの人がさ、そういうことしてたの知ってた。  家では俺と千風に暴力ばっかり、母親はどっか逃げた。正解だと思う。  俺、あの人のケータイ見ちゃって、君が、  いろいろされてる動画があってさ」 「……あの、あんまり、思い出したくない……」 「うん……ごめんね。  似てるなとは思ってたんだけど、  そんな偶然ないって思ってた。  でも、いつか会うことがあれば絶対謝ろうって  そう思ってた……。  人生、めちゃくちゃにしてごめんって」 「……やったのは、アンタ、じゃ、ない」 風磨に触れている手が、震えた。 思い出したくはない、けれど 目の前の風磨がつらそうで、泣きそうで。 それだけ言うのが精一杯だった。 「俺じゃなくても、どれだけ嫌でも、  それでも家族だから。  俺や千風があの人の血が濃くて、男だから  あの人の歪んだ性欲が向いた先は君。  俺のせい、だ」 「……その、風磨、先輩……」 「一回ね、聞いたんだよ。  なんでこんなことしてるんだ、  バレたら終わりだろ、やめろよ、って。  そしたらコレ、煙草やられて、それから言われた。  お前らがそんな見た目だからだよ、ってさ」 父親ながら気持ち悪い、と風磨は嗤った。 どこか怯えているような、怖がっているような そんな風磨に、月乃はどうしていいかわからずに そのまま話を聞いている。 「ごめんね、勝手なシンパシーだな。  ほとんど初対面なのに話しすぎたよ」 「……アンタは浅原先生じゃない、  俺の事を助けてくれた、風磨先輩、だ。  俺にはそれしか、言えないけど……」 「……はは、月乃くん、あの人が手出したのも  ちょっとわかる気ぃするよ。  危ないよなぁ、本当に」 こつん、と、また額を合わせられ 月乃は優しく笑う風磨に少しきょとんとする。 「友達に言えないことも、なんでも、  俺でよければ聞くから、  これから先輩後輩としてよろしくね、月乃くん」 「……よろしく、お願いします……?」 なんだか、教室で会った風磨とは別人のようだ、と そう思いながら月乃は自分からこつん、と額を合わせてみた。    

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