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第39話 3
昼休み、こっそり校舎へと戻った月乃は
朝陽達にどこに行っていたのかを問い詰められたが
なんとなく、風磨や千風の事は言えなかった。
事情が根深そうな二人の事を自分から言うのは
気が引けてしまって、保健室だとごまかす。
「どこか悪いの?」
「いや、平気だ。
ちょっと立ちくらみがして、
休んでただけだから」
「まあ、ご飯食べられてるんだから平気なんじゃないの。
そんなに心配しなくて大丈夫だよ朝陽」
「んー、そっか、そうだな……」
天の言葉に、朝陽も納得したようで食事を再開して
けれど月乃は、目の前に座る一夜からの
視線の痛さにあまり落ち着いて食事ができない。
納得していない、疑うような視線。
会話もそこそこにあまり進まない箸を必死に進め、
食事が終わったからと席を立とうとした時だ。
「月乃、図書室に行かないか。
少し聞きたいことがあって」
「…………ああ、いいぜ」
案の定、一夜に呼び止められて、
月乃は一夜に手を引かれ学食を後にした。
「君さ、たまには気づかないフリしたって
いいと思うぜ」
「泣いたあとがある顔で大丈夫なんて言われて
放っておく事はできないな」
「……詮索されたくない事だって、俺にもある」
行き先はやはりというかなんというか、
図書館ではなく中庭のいつもの場所。
一夜は月乃の答えに複雑そうにするが
不意に月乃の肩口に顔を寄せた。
「……だから、ここは学校……」
「怖いんだよ、月乃は、隠すのが上手いから。
知られても問題のないものはたくさん見えるのに、
本当に知られたくないものはひとつも見えやしないから、不安になるんだ」
「……一夜……」
「お前が無理をしていないか、
本当は何があったのか、そればっかり考えてる。
朝陽も天も、他を好きになる事ができるんだろう、
でも、俺はお前しか、好きになれない」
震えそうな声で言われて、月乃は戸惑う。
何があったかなんて、ありのまま伝えれば
一夜が何をするかわかりはしない。
けれどこのまま言わないでいれば、
一夜はずっと不安に苛まれてしまうんだろう。
「……全部話しても、誰にも危害を加えないって
俺と約束してくれるか?」
「……それは……」
「約束できないなら、俺は話す気はない」
「……、……わかった」
渋々、といった様子で頷いた一夜に
月乃は話し出そうとしたが、その時、
ぽん、と両肩に誰かの手が置かれた。
慌てて振り返ると、呆れた顔の天と、
少し不機嫌そうな朝陽だった。
「一夜だけそれを聞くのは、どう考えても
フェアじゃないんじゃないの」
「月乃はすぐそうやって一夜にしか言わない、
おれも天も知りたいんだからな!」
「……わ、悪い……。
君ら、気づいて……」
「当たり前だろ、嘘ついてる事くらいは
お前の顔見ればわかるよ」
少し気まずくなりながら、月乃はぽつぽつと話始めた。
柴田達にされた事、そして、風磨が助けてくれた事。
それでも、千風の事や風磨の火傷の事は
月乃の口から出ることはなかった。
そうして事実を話終わると、
月乃は三方向から同時に頭を叩かれる。
「いっ……てぇ……!」
「馬鹿なんじゃないの、
なんでそんな事になっておいて隠そうとしたの、
このまま隠してたら許さないとこだった」
「今回ばかりは天と同意見だな」
「ばーか、月乃のばーか」
朝陽には追加で頬を引き伸ばされ、
ひりひりする頬や頭の痛みを感じながら
三人ともどこかほっとしたような顔をしているのを見て
月乃も安心したように息を吐いた。
この時、他にもう一人、話を聞いていた相手が居たことは
月乃も、他の三人も、誰も気づいていなかった。
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