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第42話 共有
「で、話ってなんだ?」
「んー?
まあ、先に話始めるのもフェアじゃないしね、
一夜が来るまで待ってようか」
放課後、約束通り部屋で天の帰りを待っていた月乃は
早速とばかりに切り出すが、天は笑ってはぐらかしてしまう。
それに対して首をかしげるものの、
天が話す様子がないので月乃はそのまま黙って一夜を待った。
「天、月乃、入るぞ」
「ああ、どうぞ」
「お疲れ一夜」
しばらくして、ノックと一緒に一夜が入ってきて
天と月乃は他愛のない話を切り上げる。
そして、隣どころか足の間に月乃を座らせるようにした一夜と
それに対して嫌な顔をせずに向かいに座る天。
月乃はその体勢にほんのり違和感を覚え、
身動ぎをしながら二人を見る。
「なんだ、まるで逃げないようにしてるみたいな……」
「ははっ、察しがいいね、月乃」
「は?
待て、君ら一体どんな話をしようとしてるんだ、
逃げないようにって……」
ゆるく、しかし外れないように腰にまわされた
一夜の腕と、月乃と優しく指を絡めてくる天の手。
嫌な予感に冷や汗を流しつつも、
月乃はその優しい拘束から逃げられそうになかった。
「月乃は最近、人気者だからね。
あんまり俺達に構ってないんじゃない?」
「か、構ってるだろ……!
一夜にも、天にも……」
「本当か?
あんまり自分から俺の部屋に来なくなったな」
「部屋にいてもさっさと寝ちゃうしね」
どこか確信めいた二人の物言いに、
月乃は今すぐ逃げたい衝動に駆られる。
二人の言葉はほとんど図星だった。
月乃は二人に告白をされてからというもの、
意識的にどちらかと二人きりになるのを
避けている部分があり、この間の一夜とのデートや
同室の天との時間はともかくとして、
迫られるようなシチュエーションを避けていた。
二人は確実に、それに気づいている。
「な、何が言いたいんだ君ら、
俺はまだ、到底答えを出せるような……」
「そうやってはぐらかして、
現状維持が許せるほど、俺達の心は広くないな」
「ひ、っ……!?」
「卒業まで待てば答えを出さなくて済むと思った?
まあでも、無理矢理決めさせるのも酷いなって
俺と一夜で話してたんだけどさあ……」
「あ、ちょっ、天……!」
後ろから一夜に低い声を耳に吹き込まれ、
手のひらや指の股を天にするするとなぞられて
月乃はびくりと震えてひきつった声を出す。
窺うようにちらりと交互に視線をやっても
二人とも意地の悪い含み笑いを返すだけで。
月乃が逃げようと軽くもがいたところで、
ようやく二人が口を開く。
「お前はさ、俺の事も一夜の事も、好きなんでしょ」
「……それは、その……だから、
今はどっちかなんて決められないって……」
「ああ、だから、俺達も月乃のペースに
合わせてやろうと思ったんだ。
けどまあ、年頃だからな……我慢にも限界がある」
「それは、どういう……」
段々と膨れてくる、嫌な予感。
月乃が二人から目をそらした時、
ぎゅう、と、優しい拘束が強くなった。
「月乃が答えを出せないなら、
俺達二人と付き合ってもらおうかって思ってな」
「……は……?
いや、そんなの……無理だろ、三人なんて……
聞いたこと、ない、から……」
「お互い、相手との恋人らしい事は譲歩する。
でも相手以外に迫られたりしたらまあ、
許せないかなって……どうかな、月乃……
俺は優しい提案だと、思うんだけど」
「ま、まって、待ってくれ、
急すぎてついていけないから……
時間をくれないか、君達二人と付き合うとか、
俺はそんなに器用じゃねぇ……!」
眉を下げて困惑する月乃に
天と一夜は目配せしてから、お互いに頷いた。
「別に今までと変わらないよ。
俺とも一夜とも、デートやキスやセックスするって
ただそれだけだ、なあ月乃?
もう、全部やってんだろ?」
「セッ……いや、そっ……んな、の…………」
「じゃあ今すぐどっちかを選ぶか、
選ばないならどっちもフッてくれ」
「……それは、できねぇ、けど……」
顔を赤くして戸惑う月乃に、
前後からくすくすと笑う声が聞こえて。
それから、楽しそうな、けれど有無を言わせなさそうな声音で
月乃の両側の耳から同じ言葉が吹き込まれる。
「じゃあ、決まりだな」
それはまるで、甘美な死刑宣告のようだった。
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