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第43話 2

    翌日の昼休み、月乃は自分から朝陽を呼び出し、 学食ではなく購買のパンを人目につかない場所で一緒に食べていた。 それというのも勿論、昨日の事を相談するためだ。 「さ、三人で付き合う事になった……?」 「その、昨日部屋で、天と一夜に返事迫られて……  俺はどっちかを選べなくて、でも  どっちも悲しませるの嫌だから、答えられなかったんだけど……」 「そうしたら、そんなことになったと。  あーまあ、露骨だったもんね、今朝!  風磨と千風を牽制したり、月乃へのスキンシップとか!」 カツサンドを頬張りながら驚く朝陽に、 月乃は浮かない顔をして事情を説明する。 今朝、朝陽の言うように、天と一夜は露骨だった。 千風や風磨が月乃へ過度のスキンシップをしようとしたら月乃をわかりやすく遠ざけ、 二人とも月乃へ世話を焼くふりをしながら 明らかに接触が多かった。 それに朝陽達は驚いたものの、何かあったのかと それくらいにしか思っていなかったが、まさか そんな事に、とさらに驚きを重ねる。 「でもさあ、月乃は二人とも好きなんでしょ?」 「……その、そりゃあ……そう、ではあるんだけど」 「じゃあ何が都合悪いの?  まあ三人でってびっくりだけどさ、  一夜とは元々いちゃついてたし、  天ともそれなりに、ねぇ?」 「……、……」 月乃の話に、朝陽は純粋な疑問をぶつける。 朝陽にとっては、このまま平行線で終わるよりも いつか月乃が言っていたようになるよりも よっぽどいいと、喜ばしくもあったからだ。 しかし月乃は、言葉を濁して片手で顔を覆ってしまう。 「君も、そうなんだけど……」 「うん?」 「住む世界とか、格とか、俺と君達だと  凄く違うんだよ、本当に……。  君達の人生が楽だとか、そんな酷いことを  言うつもりじゃないんだけど、  俺にとって三人とも、雲の上みたいな存在なんだ」 「……ずっと、一緒に居たのに?」 いつからか月乃が口癖のように言っていた、 人生がハードモードだという話を朝陽は思い出していた。 あの時は冗談めいていたけれど、 今目の前で頭を抱える月乃はきっと本気だ。 朝陽は愕然として、先の言葉を待った。 「俺、何にもできねぇし人に嫌われるし、暗ぇし。  君はクラスどころか学年から人気者だろ、  一夜だって性格がいいから人に嫌われる事って  ほとんどないし友達もそこそこ広く居るし、  天に至っては……俺と違って本当よくできる王子様みたいな奴で……」 「だからって月乃は悪いやつじゃないし、  ていうか何にもできなくないだろ!  あと上下関係もないから……!」 「……不釣り合いなんだよ、俺とじゃ。  一夜も天も、たくさん良いものが選べて、  将来幸せな家庭がきっとできるのに  それを俺が摘むのは、分不相応ってやつだ。  ああでも俺、君と天なら、本当に祝福してたよ」 たぶんな、と付け加えて、 月乃は泣きそうな顔で笑った。 幼い頃からずっと植え付けられた劣等感と 期待外れのため息によって失いきった自信。 拗れに拗れていた事を、朝陽だって知っていたが こんなに根深いものだとは、と そう思って朝陽も悲しそうな顔をする。 「一夜も天も、月乃以上に好きになる人なんか  絶対現れないよ、普通じゃないもん二人とも、  月乃への執着とか、入れ込みとか……!」 「……先の事なんてわかんねえだろ。  でも、俺、どっちもフるのも、怖くて。  二人と仲良くできなくなって、離れてくのって  すげえ嫌だし……その、我が儘なんだ。  そのままが、一番平和だって、  本当は最後まで返事しないつもりだった」 「なあ、これからどうしたいの、月乃」 「……どうしたら、いいんだろうな」 また笑う月乃に、朝陽は唇をぎゅっと噛んだ。 月乃は二人とも好きだ、きっと恋愛として。 天も一夜も月乃が好きだ、勿論恋愛として。 一見簡単なように思えるそれは 縺れて拗れて、複雑になってしまっている。 「おれは、月乃が二人と付き合うの、祝福するし!  それに絶対、そうしたほうがいいって思う!」 「……けど、俺とだとあの二人に迷惑かかるだろ、  もし俺なんかと噂になったりしたら……!」 「なんか、とか言わない!  おれはもし、世界中から嫌われてる人間を好きになったとして、  そいつと付き合えたら最高に幸せだよ、  周りからなんて言われようが関係ない、  そんなのおれが全部黙らせてやる!  その覚悟もなくて告白なんかしねえよ!」 「……っ……」 顔を覆っていた手を剥がされて、 まっすぐにぶつけられる朝陽の言葉に 月乃は戸惑い、後ろめたくなった。 以前から、天との関係は口に出して望まなかった。 気持ちはばれてしまっていたが、 自分との関係で何かを天が言われても 護る自信なんかなかった。 「月乃はさ、もし、天や一夜なんかと  付き合ったの?正気か?とかって  他人に笑われたらなんて言うの?」 「そんなの、周りの奴等が  二人の良さをわかってないだけで……!」 「ほら、ね?  そう言えるんなら大丈夫だよ!  自分について何か言われても反論できないならさ  そこは二人に任せちゃえよ。  だから、そのぶん月乃は、二人についての事から  二人を護ってやればいいの!」 両手で頬を押さえられ、朝陽にまぶしいくらいの 笑顔でそう言われた月乃は、 それに驚いて言葉を返せないでいた。 「あと、月乃の返事の障害は何が残ってるの?  身体の事なら、手出したんだから責任取らせろ、  将来自分以上に好きになる相手が現れるかもって  そんなもん現れてから考えちゃえよ!」 まるで太陽のような笑顔と、陰のない言葉。 月乃はそれに、なんだか脱力してから やっと憑き物が取れたかのように笑った。 「君はほんと、すげぇなあ」 「そのおれがオトせなかった天が  おちたんだから、月乃もすげぇなあ」 「……昨日、なあなあで流されて終わったから  帰ったら改めて、二人に話すよ」 「じゃあ明日はちゃんと、幸せの日になるな!」 本当に嬉しそうに朝陽は笑って、 月乃もそれにつられて笑う。 人気のない木陰に、二人の楽しそうな笑い声が 少しの間続いていた。    

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