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第45話 からかい
「月乃、次の日曜空いてるだろ。
俺と一夜とどっか行こうか」
「三人だけでか?
朝陽もバイトがなかったら……」
「だからお前ほんといい加減にしろよ
この鈍感クソ童貞が」
朝、制服に着替えながら天は月乃に辛辣な言葉を浴びせていた。
それというのも、つい先日、月乃と天、それと一夜は
恋人として付き合うに至ったのだが
肝心の月乃にその自覚があまりにも欠けていた。
天も一夜も、強要じみたものでもなく、ちゃんと
恋人という関係になったからには
少しは月乃と甘い時間を過ごせるのだろうと
そう思っていた。
しかし実際、月乃は天にも一夜にも、
告白の返事をする前と何も変わらない。
「俺と一夜と、お前は恋人になったの。
ちゃんと好きって言ったよな?
デートしようって誘いもわかんねぇのかお前は」
「いや、でも……今まで二人以上で出掛ける時って
朝陽も一緒に行ってたから……
仲間外れみたいにならないかなって……」
「じゃあ俺と二人ならちゃんとデートをするわけだ?
ふーん、別にいいけどね、一夜と俺と交互にでも。
お前の負担が減るよなあって思って、一緒にって
優しい優しい俺からの提案だったんだけどなあ?」
「……ゴメンナサイ、三人でお願いシマス」
意外と短気な天にネクタイを掴まれながら迫られ、
月乃は目を逸らしながら謝る。
すると天は満足そうに頷いてから、
ちらりと部屋の時計を確認した。
「……なあ、お前のひきつった顔に興奮したんだけど
まだ時間余裕あるし一回ヤってかねえ?」
「馬っ鹿じゃねぇのか君!
朝っぱらから何考えてんだ脳ミソ下半身かよ!」
「俺お前の嫌がる顔が本当に好きなんだよね、
無理矢理征服してやりたくなる感じ?
トラウマぶり返してる時なんか正直言って
その顔だけでヌけるから」
「悪趣味にも程がある……!
ていうか本当、もうっ、君、ド変態だな……!!」
腕の中に無理矢理引き寄せられ、
身体を密着させられた事に焦りつつも
月乃は理性を総動員して必死に抵抗する。
しかしそんな月乃の悪態や抵抗も興奮材料なのか
天はぺろりと唇を舐めた。
あ、これダメなやつだ、と、月乃が顔を青くさせた
その時、部屋のドアが不意に開いた。
「月乃、天、まだ起きてないの、か……」
「……ああ一夜、おはよう。
すっごい間の悪いタイミングでどうも」
「い、一夜……頼む、助けてくれ」
顔を覗かせたのは一夜で、
目の前の天と月乃の状態を面白くなさそうに見てから
月乃の頼み通りに近づいて天を引き剥がす。
すると今度は、面白くなさそうなのは天の方だ。
「あーあ、せっかくいいところだったのに、
一夜のタイミングのせいで萎えた」
「朝からしようとすんのがおかしいんだよ!
……一夜、助かった、ありがとう……」
「いや、構わない。
天は堪え性がないな、わざわざ朝に襲わなくても
夜の方が時間があるから好きにできるだろ」
「……おい、一夜?」
ブルータスお前もか、かの有名な一節が月乃の頭に浮かぶ。
助けてくれたと思った一夜もケダモノだった、と
月乃は眉間に皺を寄せて一夜を睨む。
しかし、一夜は至って真面目な顔で言い放つ。
「大体、朝なんか一回しかできないだろ、
俺は月乃相手に一回じゃ到底足りない」
「あーわかるわ、こいつ一回出すと
終わった?終わった?みたいに見てくるから
俺絶対その期待裏切ってやろうって
あの時がめちゃくちゃ興奮する」
「……っ、君らは朝からそんな話しかできねぇのか!!
大体っ、本人の前で赤裸々に話すんじゃねぇよ!
もういい、俺先に行くからな!!」
ばっ、と、乱暴に一夜の腕を払って鞄を掴んだ月乃は
大股な足取りで部屋を出ていった。
残された天と一夜は、そんな月乃に続いて
ゆっくりと歩き出しながら、堪らないといったように
肩を震わせる。
「あーあ、真っ赤にして。
ああいう反応するからいじめたくなるって、
自覚のないとこが性質悪いね」
「全くだ。
まあ、あんまりやり過ぎると
しばらく口をきいてくれなくなるからな、
早めに機嫌をとりに行くか」
そう二人して笑ってから、少し先で朝陽や千風、
風磨にまで赤い顔をからかわれている月乃に
同時に助け船を出してやる姿には
少しばかり、恋人の余裕が覗いていた。
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