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第48話 親友

    実は盛大なツンデレでした、と 月乃が気まずそうな柴田を連れて他の面々に 事情を説明して、今回の事は収束した。 天や一夜に関しては納得いかなさそうで、 千風はばつが悪そうにし、朝陽はどことなく 腑に落ちなさそうな顔をしている。 風磨は月乃に、返すのはいつでもいい、と そう言って、それ以上の言及はしなかった。 「あのさ、月乃……」 「ん?  どうした、朝陽」 「月乃は、何されても相手の事ゆるすの?」 「……あんまり度が過ぎてたら流石に怒る。  ただ、怒るのも人を嫌うのも、好きじゃなくて。  両方神経使うし、意識してなくちゃいけないし  俺にはそれが、どうしようもなくしんどいから」 寮までの道すがら、朝陽が怒ったような顔をして 少し前を歩いていた月乃の腕を引いて呼び止めた。 風磨も千風もバイトだと去っていき、 一夜も柴田も天も、部活だ生徒会だと席を外して。 月乃は朝陽と二人で、何を話すでもなく帰っていたところだった。 「今日のも、今までのやつも、  もしされてたのがおれだったとしたら、  それでも月乃は柴田を嫌わなかったの?」 「……君は、人から嫌われない方だから、  あんまり想像ができねぇけど……そうだな……  君の事は大事だから、君のためなんだったら  人を嫌う労力も惜しまなかっただろうな」 「……なんで、いっつも、自分は大事にしないの?」 「……いつだって大事にしてるからこそ、だぜ」 声の震えている朝陽に、月乃はそう苦笑した。 朝陽はその意味がわからず、 怪訝そうに眉を寄せて月乃を見るが 月乃は眉を下げて苦笑いを続ける。 「例えば、人からの嫌悪が、刃物だったとするだろ」 「……?」 「俺はそれを何本も向けられてる時期が  それなりにあったんだけど……  相手を嫌ったり怒ったりするとな、  そのぶんそれが鋭くなるのがわかるんだ」 君にはきっとわからねぇけど、と そう続けて、月乃は朝陽の頭を撫でる。 「君はこの感覚、ずっとわかんなくていいよ。  でも、君や天、一夜とか……  俺の大事なものにそれが向けられてると、  俺はその切っ先をこっちに向けてやりたくなる。  どれだけ鋭くなったっていいから」 「でも、それじゃあ月乃が……」 「そうだな。  一回仲良くなると、余計に痛いから  最初からある程度嫌われておくと楽だぜ。  …………君らは、俺を嫌わないでほしいな。  今までのやつで一番、痛そうだ。  何より俺、多分君らへの興味が無くせないからな」 「なるわけないだろ!そんなの!」 慌てて月乃の腕を掴む朝陽に、 月乃は先程と違って嬉しそうに笑う。 それを見て朝陽もいくらか安心して、 その衝動のまま月乃の体を抱き締めた。 「月乃がそうなってたのがいつの時期かは聞かない、  でもおれ、絶対、ずっと月乃の事は好きだからな、  月乃がもしもおれを大嫌いになったって、  ずっとずっと大好きなんだからな!!」 「ははっ……君、やっぱ強ぇわ。  そうだ、これから暇なら俺とデートでもするか?」 「もー、月乃、今はもう人のもんなんだから。  この前天と一夜が月乃がデートしてくれないって  嘆いてたのに、終いには泣いちゃうかもよ?」 「そう言いながら乗り気な君はなんなんだよ」 人のものなんだから、と言っておきながら 朝陽の目はきらきらと輝いている。 そして月乃の手をとると、何か食べに行こう、と 幸せそうな笑顔で歩き出した。 「おれは、繊細で綺麗で気遣い屋で、  おれの事大事だって言ってくれる、  そんな親友とのデートがだいすきなんだよ!」 「奇遇だな、俺も……明るくてかっこよくて人気者で、  いつも俺を心配してくれる、  そんな親友とのデートはだいすきだぜ」 天と一夜には内緒な、と、 朝陽と月乃は繋いでない方の手の人差し指を 唇の前に立てて、お互い楽しそうに笑いあった。     

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