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第50話 2

    お前の事について一夜と話してたんだ、と 表情のない顔で天から言われ、月乃はたじろぐ。 空き教室へと連れてこられて、天と一夜に 挟まれるようにして逃げ道を塞がれた状態は いつかの三人で付き合おうという告白の時のようだ。 しかし今回、あの時と決定的に違うのは 天も一夜も、怒っているということ。 「お前、予定空けてもらえないか頼むとか……  そんな事言ってたっけね」 「……その……君らが無理ならちゃんと断っておく……」 「月乃は、無理じゃないのか?」 「俺は……その……」 一夜の問いに言葉を濁す月乃に、 天は顔を歪めて盛大な舌打ちを浴びせた。 それに肩をびくりと震わせた月乃に構うことなく 天は月乃のネクタイをひっ掴む。 「ああわかった、そんなに行ってほしいなら  遠慮せずに女のとこに行ってやるよ。  よく考えりゃお前、行きたい、も楽しみ、も  何一つなかったもんな、悪いな気づかなくて」 「っ、ちが、う、行きたくなかった、わけじゃ……」 「なあ、お前の思う恋人って何?  幼なじみと何が違うと思ってんの?  ほら言えよ、答え次第じゃ機嫌なおしてやるから」 「……それは……」 月乃を睨みながら言う天に、月乃は言葉を紡げない。 言わなければいけないとわかっているのに けれど月乃は、自分の持っている答えが どうしても自分の我が儘に思えて仕方がなかった。 言えば、言った時以上に嫌われるかもしれないと そんな考えが浮かんでしまって、喉奥から声が出てこない。 「月乃、言えないのか?」 「俺は……多分、君らの……  満足いくような答えを持ってないから……」 「……それは、フラれてるようなもんなんだけどな」 「っ、そういうわけじゃない……」 一夜の声は、天に比べるとまだ優しげではあるが 普段からすれば怒りきっている。 月乃は少し震えてしまって、さらに畏縮した。 しかしそれでも、小さな声でなんとか言葉を紡ぐ。 「……君らと、恋人なんて関係は……  本当に贅沢だと思うし、身の丈に合わない幸せだ」 「それで?  やっぱり別れたいって?」 「わ、別れたくない……のは、俺の我が儘だから。  本当は、天とも一夜とも、いろんな事がしたい。  日曜日だって楽しみにしてた……昨日だって……  朝陽に見てもらいながら、服買ったし、  君らの反応を想像して楽しくなったりもした……」 そこまで言うと、後ろから月乃の体に腕をまわしている一夜の力が弱まった。 ネクタイを掴む天の手も離れて、 先を促すように視線を向けられる。 「君はよく、俺に、恋人だって自覚がないって  そう怒るんだけど……君にも一夜にも、  気にかけられて触れられて、本当に幸せなんだ」 「じゃあなんで断らなかったんだよ、  あれ、どう見ても俺らへの告白だろーが。  予定があるって言って断ればよかっただろ」 「……君はよく、黒髪の女の子を連れ込んでただろ。  一夜だって、付き合ってた彼女、全部、  おとなしくて小柄な女の子で……  あの子達、ぴったりだ」 「……おい、待てよお前、まさか……」 目を逸らしつつ話す月乃は、 後ろで一夜がどんな顔をしているかも 天がわなわなと震えているのも、気づかない。 「俺は女の子じゃない、柔らかさもないし  男と付き合うようにできてない。  身長だって伸びて、小さくないし、  将来だって望めないから、どうやっても  本物の女の子には勝てな……っ、い゛っ!?」 「こっの……くっそ、バカ……!  この期に及んで女には勝てないだぁ?  男ばっかりの環境の気の迷いでお前に走ったとでも思ってんじゃねえだろうな!」 「そ、そうじゃない、でも君らの女の子の好み……  ああいうの、だろ?中学からずっと……」 「男も女も引っ括めた好みがお前だっつーんだよ!  恋人の意味から辞書で引いてこい……!  テメェも黒髪で、中学ん時は小さかったろうが!  一夜が彼女居たのなんて中学の1ヶ月だけだろ!」 わなわなと震えた拳をそのまま月乃にクリーンヒットさせた天は、 月乃の胸ぐらを掴んで前後に揺さぶる。 一頻り叫び終えた天はそのまま月乃を解放するが、 今度は月乃の頭上から、堪えきれないような笑いが降ってきた。 「ああ、よかった……月乃が、  別れてもいいなんて思っているかと思った」 「そんな事ない……」 「じゃあ、俺達にはデートに誘ったりキスしたり、  そういうことを自分からしてくれないのは  どうしてなんだ?」 「俺が独占するわけにいかないし……それに、  俺、君らの無理してる顔とか、嫌がってる顔が  全然わかんねぇから……嫌われんの怖ぇ。  朝陽なら、ちゃんとわかんだよ、そういうのは」 先程とはうってかわって、くすくすと 機嫌の良さそうな笑い声が頭上でする。 「バカだな。  恋人だから独占できるんだ。  それに、恋人からのお誘いやキスを嫌がるような  そんな奴がどこにいるんだ」 「デートもキスも、したことねぇんだぞ。  つまんねえし、下手に決まってる」 「俺も天も、月乃が好きなんだぞ?  ほらもっと自信を持ってくれ、な?  お前の我慢じゃなくて、我が儘が聞きたいんだよ」 「…………ごめん」 天に殴られたところを一夜に撫でられながら、 月乃は一夜の腕の中で顔を赤くする。 天も一夜も、自分が独占していいのかと、 そんな事を思うと、嬉しさと照れでどうにかなりそうだった。 「それで?  日曜日の俺達の予定は、キャンセルか?」 「そうだなぁ……月乃が言うなら、まあ、  女の子とのデートに行ってもいいかな」 「……に、ちようびは……俺と、デートして、  ほしいから……君らの予定は、空いてねぇ……」 照れた顔を腕で隠しながらそんな事を言う月乃に 天も一夜もやっと、満足そうに笑った。    

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