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第51話 3

    数日後の日曜日、月乃は約束どおり 天と一夜の二人と出掛けていた。 万が一見つかると嫌だからと、月乃の要望で 学校からは遠い場所にある そこそこ有名な水族館まで足を伸ばしている。 「それにしても……月乃が、  そんな格好してくれるなんてね」 「ああ、正直驚いた」 「……一緒に出掛けるのが君らだからだ。  ここに何もなけりゃ、君らの前では  普通にしようって思ってるよ」 歩きながら、天も一夜も嬉しそうに月乃を見る。 それというのも月乃は今日、普段とは 決定的に違うところがあった。 学校でも、寮でも、街中でも、 中学以来ずっと月乃が隠してきた首もとが 今日の服装ではさらけ出されている。 例え幼なじみだとしても決して無防備に晒してくれなかったものが 恋人として出掛けるからとガードが取り払われているという事実が 天と一夜にはどうしようもなく嬉しかった。 「日曜日だからどこのコーナーも人ばっかだな」 「月乃どっか見たいとこある?  俺クジラとかサメとか、でかいやつ見たい」 「俺は順路がまわれればそれでいいぜ、  あ、でもクリオネとかは見てみたいかもな。  君の見たいやつはちょうどこの先で……  一夜は?何かあるか?」 「俺はそうだな、海のトンネルは歩きたいかな」 パンフレットに顔を寄せながら、 月乃達は楽しそうに話をする。 屋外にも屋内にも様々なコーナーがあり どこも人で溢れてはいたが、パンフレットだけで 楽しそうな事が伝わり、興味の方が上回った。 「じゃあこういうコースで……」 「あの~……ちょっといい?」 「はい?」 皆の見たいところが全部まわれるように、と ようやくまわり方を決めた時 パンフレットとにらめっこをしていた三人に 遠慮がちに声がかけられた。 三人が同時に顔をあげると、そこには三人の女性。 大学生ほどだろうか、大人びた雰囲気に 月乃は何かあっただろうかときょとんとするが、 天と一夜は少しテンションの落ちた顔をした。 「君達、高校生?  私たちこの近くの大学に通ってて、  ここよく来るんだよね」 「そうそう!  うちらも君らもちょうど三人だし、  よかったらいろいろ案内するからさ  一緒にまわんない?」 「人数いた方が楽しいと思うの、どうかな?」 「あー……えっと……」 代わる代わる話しかけられ、月乃は少し狼狽える。 何せ、三人とも、天と一夜ばかり見ていた。 人数合わせだと暗に眼中から外された月乃は どうしたものかと天達を見る。 三人とも、美人でスタイルが良い、かなりのレベル。 絵になるなあ、なんて、 そんな事を思いながら天と一夜を見ていると 月乃は天に不意に腕を引かれた。 「すいません、今日は男だけでって決めてるんです」 「せっかくだけど、悪い」 もう片方の腕は一夜に掴まれて、 月乃はいいのか、と窺うように二人を見るが 黙ってろ、と天に満面の笑みで牽制されてしまう。 「なんだあ、残念。  じゃあまた気が向いたら声かけてね、  私たちしばらく居るから!」 「はい、その時はお願いしますね」 笑顔で去っていく三人を笑顔で見送って、 それから天と一夜は眉間にシワを寄せて月乃を見た。 「……ほんと、お前以上の顔面になってから  慎ましやかに出直してきてほしい」 「全くだ……月乃以上なんてそうそういないんだが」 「君らモテるから贅沢だな、  俺はかなり美人だと思ったぜ、三人とも」 「月乃は靡くなら俺と一夜以上のイケメンにしてね」 ぽんぽん、とあしらうように頭を叩かれた月乃は 二人以外は女の子が対象だ、と心の中で毒づきつつ 天と一夜についていく。 「君らがもう一回声かけられたらアレやってみよう  俺のお兄ちゃんなんですってやつ。  この前談話室にあった漫画でそんなの見たぜ」 「天と月乃はともかく、俺は無理があるだろ」 「月乃、今のお兄ちゃんっていうところもう一回」 「君って中身はド変態だよなあ」 けらけらと笑いつつ、三人とも楽しそうに話しながら 最初のコーナーへと歩いていった。    

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