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第52話 愛情の二乗

    あれから楽しく水族館をまわって、食事をして、 それから買い物や寄り道も少々。 日が暮れたあたりで、そろそろ帰るかと 誰からでもなく言い出して、なんて そんな楽しいしかない1日に、月乃はご機嫌だった。 帰ったら買ったお土産を渡しつつ朝陽に いろんな話をしよう、お土産は喜んでくれるか、など そんな考えを巡らせて満たされていた、はずだった。 「だからっ、なんでこういう流れになんだよ!  俺、今日すげぇ楽しい1日だったって  今めちゃくちゃ機嫌よかったのに!」 「は?だからこそこういう流れになったんだろうが。  お前の機嫌が最高だからそういう雰囲気に  なったんだよ、ムードもクソもねぇな本当に」 「なんで機嫌がいいとこういう事するんだよ!  ていうか、一夜も止めてくれよ、  自分の前でそういうことされんの嫌だろっ!?」 「いや待て、待ってくれ月乃、  俺を生殺しにする気か?  俺も参加するに決まってるんだが……」 「はあっ!?」 しかし、月乃は機嫌が悪そうに叫んでいた。 質の良いシーツの敷かれた天のベッドへと 天によって押し倒され、そしてその傍に腰かけている 一夜も、月乃の片方の手首をやんわりと押さえつけてきていて。 どう考えても、そういうこと、をする雰囲気に 月乃が必死に抵抗をしていた。 「君も、って、なに、どういうこと……」 「お前と俺と天の三人でヤるって話。  ああ、勿論天に突っ込む気はないからな」 「お前に突っ込むのも突っ込まれるのもごめんだよ。  だから月乃、そういうことだ、わかる?」 「……む、むりだ、そんなの、絶対むり」 二人から襲われる、そんな宣言に 月乃は青ざめてふるふると首を横に振る。 しかし、するすると服に手をかけてくる天も 身を屈めて腕や顔、首なんかにキスをしてくる一夜も 止まってくれる気配はない。 「っ、ま、待って……俺ほんとに、  今日はそういうことするつもりじゃ……」 「じゃあいつならしてくれるの?  お前淡白すぎて全然誘ってこないし  一人でもしないよな、いつ欲情すんの?」 「こ、この前しただろ、付き合う、前……  やりすぎはよくねぇし……あと数ヵ月は……」 「っはぁ~?  お前セックスの事神に捧げる儀式かなんかだと  思ってんの?バカなの?性機能大丈夫?息してる?  健全な男子高校生が半年近くなんて禁欲したら  どこがとは言わねぇけどパンクするわばーか。  そんなんだから朝っぱらから顔真っ赤にして  こそこそランドリー行くはめになってんだよお前」 罵倒の止まない天に、なんでそれを、と 慌てて返す月乃だが、残念ながら逃げられそうにない。 太股のあたりをゆるりと一夜の手に撫でられ、 思わず声を漏らすと、服に手をかけている天が にんまりと意地悪く笑った。 「ほら、なんだかんだ溜まってんだろ?  気持ちよくしてやるから大人しくしてろって」 「そうだぞ月乃、優しく……あー……  善処はするから、抱かせてくれ」 「っ……っ、ん……も、待て、待って……!」 「……なんだよ、この期に及んでまだお前何か……」 ぐいぐいと天を押し返す月乃に、 天が少しだけ苛立った雰囲気になる。 が、月乃は、天の唇に自分の唇を重ねて言葉を遮る。 そして一夜にも同じ事をしてから、 拗ねたように二人を睨んだ。 「よく、わかんねぇけど、こういう時は普通、  脱がす前にキスくらいしてくれるんじゃねえのか」 途端に赤くなりだす月乃に、 天も一夜も、ぷつりという音を遠くで聞いたような そんな気がしながら、合図のように、 競うように月乃の唇を奪った。    

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