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第55話 太陽の秘密

    「そっか、よかったね月乃!  おれ凄い心配だったんだ本当に……!」 いつもの面々で昼食をとった後の昼休み、 月乃は朝陽にいろんな事を報告していた。 その顔はどことなく晴れやかで、 朝陽も幸せそうな月乃に嬉しそうだった。 「月乃もだけど……天も一夜もさ、  月乃が居ないと感情とかそういうの  本当に見せなくってさ、心配だったよね。  二人とも、月乃が他を選んだらどうするんだろうってさ」 「俺はそんなに選り取りみどりじゃないさ。  選択肢が多いのは向こうの方だし……」 「月乃は自分の魅力がわかってないなぁ」 けたけたと笑う朝陽は、 そう変わらない身長の月乃の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら よかったよかった、としきりに言っていた。 月乃もそんな朝陽に嬉しくなったが ふと、素朴な疑問が浮かぶ。 「そういえば……聞いたら悪いかと思ってたんだけど  君はその、今は相手とか、いねぇの?」 「おれ?  んー、おれはまあ、今はいいかなぁ」 「そっか……君、モテるのにな」 「ああ、そういえば告白はされたよ。  断ったんだけど結構しつこくてさ、  まあ今はそんな感じ、特に恋愛はしてないなあ」 天に告白したという過去がある出前、 切り出すかどうか迷った月乃だったが 意外とあっさり返されて少し驚く。 今はいい、には悲壮感などは何もなく 本当に自分と天が恋人な事に不満や寂しさは なさそうで、月乃はほっとした。 「君はその気になれば、いつでも恋人ができそうだ」 「残念ながら、その気になれそうな相手は  今のところ全員お手つきなんだよね。  例えば……月乃とかね」 「おいおい、冗談はよせよ。  君と俺は親友で、そんな対象でもねぇだろ」 「えー?おれ余裕でいけるけど。  綺麗な顔大好きだしね、おれ。  天もそこが好きになったとこある」 くすくす笑いながら話す朝陽に、 月乃も笑いながら返す。 そして授業が始まるからと、二人して教室に戻っていった。 「……っていう事が、昼休みの話ね。  まあつまりおまえは対象外だから  早くおれを諦めてくれないかなあ」 そして夜、バイトが終わった後の時間に バイト先であるカフェのロッカールームで、朝陽は疲れたような顔で話していた。 月乃には決して見せないような、 心底相手に呆れている顔。 にこにこきらきらとした笑顔もなく、表情もどこか冷たい。 「ど、どうすりゃ、対象に見てもらえんの……」 「はー……もう、めんどくせ。  見た目が好みの範疇外すぎて無理って  おれはそう言ってんだよ。  いい加減わかってくんないかなあ……千風さぁ」 そんな朝陽がロッカールームで話していたのは、 先日、月乃達とも友人関係になった千風だ。 着替えながら受け答えする朝陽を 真剣な顔で見て、時折寂しそうにしている。 そんな顔に心を痛めるでもなく 朝陽は大きくため息をついて、千風に言い放った。 「おれは、おれの大事な大事な月乃を騙したおまえを好きになる事はないし、  なんなら顔はまだ風磨の方が断然好みだね。  だからおまえとはセフレしか無理、  それもただの処理目的の道具。わかった?」 「っ、あ、あれは悪かったし、  月乃くん許してくれてる……!」 「ああ、月乃は優しいからね。  おまえ、その事には一生感謝しときな。  月乃の友達じゃなきゃ……月乃を騙した時点で  おれはおまえを学校から消してたから。  …………おまえらの父親みたいにね」 くすり、と、口端を吊り上げる朝陽は まるで学校と別人のようで。 千風は少し怯みつつも、ロッカールームを出ていく朝陽にめげずについていった。 「待って、あの人のクビって、あれ、朝陽くん……っ」 「さあね。  偶然、俺達が卒業したと同時に、  三年間弄んできた生徒との事が校長にバレた。  偶然、証拠写真も出揃ってて、  言い逃れできなかった教師は、明るみに出ないようにと校長に頼み込んで  世間体を気にした校長は、別の案件をでっち上げてクビにした。  そしてそれを、偶然おれが知っている。  偶然、月乃の耳には入ってない」 「……月乃くんの、ため?」 「…………偶然だって。  ああ、でも……おまえだろうが風磨だろうが、  月乃と天と一夜、この三人を傷つけるような事  少しでもしてみろ…………社会的に、ころすぞ」 店を出て、すっかり暗くなった道で 振り返りながらそう言った朝陽の顔は 夜の空間に紛れて見えはしなかったものの、 声はひどく静かで、底冷えしそうなものだった。      

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