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第56話 2
【朝陽視点】
小さい頃から、綺麗なものが大好きだった。
親の持っていた宝石類やアクセサリーだったり、
親が着ていくパーティードレスなんかも。
そこそこ良い家に生まれたから
周りは外見に金かけてる奴ばっかりで、人に対しても
本当に目が肥えて面食いになったし、
男でも女でも、美人や美形が大好き。
だって綺麗な顔は、何したって綺麗なままだから。
「月乃と天は、おおきくなったらきれいになりそう」
「きれいに?
朝陽、俺女の子じゃない……」
「そうだよ、それよりも、かっこよくなりたいなあ」
家が近くで、親同士も多少交流のあった幼なじみの
月乃と、天と、それから一夜は
小さい頃から本当によく顔が整っていて。
中でも月乃が、成長するごとに一番おれの好みの
外見になっていった。天も大好きだ。
一夜は逞しくかっこよくなったから、イケメンだけど
生憎そういう好みからは外れた。
幼なじみとしては大好きだけど。
「なんか黒崎ってさあ、暗いよな」
「あー、あいついっつも勉強してるし。
がり勉っつーの?ちょっとキモい」
小学生の頃、親に過度な期待やプレッシャーを受けて
勉強ばっかりしていた月乃はクラスで浮いてしまっていて。
陰口やほんの少しの嫌がらせが目立ってきて
おれは初めてマジギレ、というやつをした。
思えばそれが最初だった。
それからは、月乃に、天に、一夜に、
ろくでもない感情を抱く奴を秘密裏に潰して。
小さい頃から一緒の、大好きな三人が
綺麗に笑っていてくれるように、おれはいろいろな事をやった。
「なあ天、おれ、天の事、全部大好き。
だからおれとさ、付き合わない?」
中学入学からしばらくして、
家柄ゆえの立ち居振舞い、成績の維持、
周りからの期待に常に応えて、いい子にして
理想の後継者に、って、そんな事に疲れて
自分の素が要らないんじゃないか、なんて悩んでいた
潰れそうな天に、告白した。
素を認めてくれるおれに感激したような天は
おれを必死に好きになろうとしてくれた。
天は綺麗だし、いい奴だし、好きだし。
このまま付き合ってもいい、と思っていたけど。
「どうしたの天、機嫌悪いね」
「……別に。
月乃が、俺より一夜ばっか優先するから」
「そっか……まあ一夜も月乃も、
距離近いよなほんと、あやしいくらい」
「……あやしくなんかねぇよ、
二人とも付き合ってねぇだろ」
ああ、やっぱり天は月乃が大好きなんだって、
おれはその時、すっきりと天を諦めた。
自覚はないかもしれないけど、天は月乃の事でしか
感情が大きく振れない。
そしてそれは、一夜も同じだった。
「一夜さあ、本当に月乃の事ばっかりだな」
「まあ。
勿論朝陽も天も、大事だけど……
俺は、隣に月乃が居たらそれでずっと幸せだ」
それはわかりやすく、まっすぐ、眩しい好意。
そんな一夜は時々、天然発言でクラスメートだとかの
反感を買ったりしていたけど
おれはなるべく軽減できるように助言した。
「一夜さ、部活してみたら?
四六時中べったりだと月乃も困っちゃうし
友達とか交流も増えるでしょ」
「交流は、別にこのままで構わないが……」
「月乃に何かあった時、護れるようになれそう。
ほら、剣道とか、空手とかさ」
「……それも、そうだな」
それから一夜は、幼なじみ以外との交流も深めて
反感を買うことも減って、友達もそれなりに。
驚くほど単純な理由だけど、
一夜にとっては月乃が全部なんだ。
「……っ、あいつら、に、知られたくない……っ」
それで、ここからはおれの暗躍の話。
おれは偶然、放課後の誰もいない教室で
月乃が担任に身体を触られてるのを見た。
腸が煮えくり返りそうで、脳が沸騰しそうなくらい
熱かったのを覚えてる。
けど、月乃が、おれ達に知られたくないって泣くから
おれは月乃の意思を尊重した。
写真も、音声も、全部とってやって
卒業したと同時に校長にこっそり突きつけてやった。
途中、月乃がおれ達から離れようとしたりしたから
泣いて後悔を植え付けてあげたりもしたんだけど
今は無事同じ学校で親友なんてポジションになれているんだから、
結果オーライだ。
そう、こんな感じでおれは幼なじみが大好きだ。
三人の笑顔のためならなんだってやってあげる。
傷つけるような悪意から、おれが護ってあげる。
そしてこれは、天みたいに裏表なんかじゃない、
全部がおれの素だ。
大事なものには大好きをたくさん、それ以外には
大好きなんていらない。
大事なものは両手で抱えられるくらい、
それでじゅうぶんだ。
「だから、俺はやってないって!」
「じゃあ他に誰がやるんだよ、そんなの!!」
それから高校に入って少ししてから、
なんとなくバイトを始めて。
それでそのバイト先のコンビニで、だった。
おれが、千風と出会ってしまったのは。
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