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第58話 4
「で、おまえよくおれの事諦めないよね。
何、ドMかなんかなの?」
「そんなんじゃねーよっ、俺は朝陽くんが……!」
千風を敵だと意識したっていうのに、
月乃が友達だって言うから。
だから、千風に何も手出しできなくなって。
ついでに、月乃をいじめてた柴田にまで
月乃は優しいもんだから、おれはフラストレーションが溜まっていた。
月乃を護るのがおれの大事な役割なのに、
ずっとそうしてきたのにって、不満が溜まる。
だから千風にだって、月乃が居ないところだと
岩塩並のガチめの塩対応だったのに、
こいつはめげなかった。
「朝陽くんが、本気で好きなんだ!」
「……本気で、ね」
「そうっ!
俺、本気なの!朝陽くんが好き!!」
つい先日、おまえの父親みたいにするぞって
そう脅したばっかりなのに、
千風はまっすぐできらきらして、変わらない。
本気で好き、おれはその言葉が嫌いだ。
「おまえさあ、おれのどこに本気なの」
「だって、俺の事助けてくれただろ!
それに俺と仲良くしてくれるし、
俺の家庭環境に引かな……い……」
千風が言葉に詰まるくらいには、
おれは表情のない顔をしていたんだろう。
「それってさあ、おまえ、
そのうち月乃にも同じ事言い出すよな?」
「へっ?」
「おまえの事を、おれから助けてくれた、
おまえと仲良くしてくれる。
おまえの家庭環境に引かない、って……
ほら、月乃にも当てはまっちゃうだろ。
どーこが、おれに本気なの?」
「でもっ、朝陽くんはその、月乃くんと違って……」
耳と尻尾が垂れ下がった犬みたいな、そんな反応。
周りにこんな反応する奴は居なかったから
ちょっと新鮮に思えたけど、
残念ながらこいつはおれがおれである部分に
惹かれたわけじゃない。
誰でも気まぐれに見せる同情や正義感や優しさ、
与えられる感情を心地よく好きになっただけだ。
「おまえを助けたのは気まぐれ、
仲良くするのは月乃が友達って言ったから。
おれはおまえが嫌いだ。
あと、おまえの家庭環境なんかどうでもいいね、
おまえにそこまで興味ねえから」
「……、そ、それでも……」
「一緒なんだよ、おまえ。
月乃を好きだって言っておいて、
おれが優しくしたらおれに惚れたような、
薄っぺらい奴等と一緒だ」
おれが大好きなのは幼なじみの三人だけ。
それ以上を誰かに与えるなんてあり得ない。
好きだって勿体ないと思う。
好きが増えると、幼なじみへの大好きが減るような
そんな気がするから、それなら要らない。
でも、三人の誰かのためなら、
好きをちょっとくらい安売りしてもいい。
「月乃くんの事を好きな奴を、
朝陽くんが取ってたって事?」
「天も一夜も、防御力が高いから心配ないけど、
月乃は違うからね。
与えられるのが嫌悪でも好意でも受け入れる、
でも自分からマイナスな感情を吐き出さない。
外見だけで月乃に惚れた好意なんて、
すぐに嫌悪に変わる。月乃にはただの毒だ」
「月乃くん、自分は人気ないって、
嫌われることしかないって、気にしてるよ」
「大丈夫だよ、おれがそのぶん大好きをあげるから。
月乃に向く感情は良質なもんだけでいいんだ、
毒になるんなら……好意だって、おれが喰ってやる」
がちん、って歯を鳴らしながら言えば
千風はちょっと悔しそうに黙った。
思ってたような相手じゃない、優しくないって、
そんなところだろう。
それならおれから離れていけばいい、どうぞ。
「俺は月乃くんの事は、
こうやって好きになんないよ!」
「おれの事自体も好きになってないのに、
それは何の宣言なんだよ」
「……っ、返事、なくてもいいし、
俺の事嫌いだって、それならそのままでいい。
でも俺の気持ちがちゃんと本物だって事は、
絶対に朝陽くんに認めてもらうからな!」
「……どこに本気になってんだよおまえ。
言っとくけど、絶対認めないから、それ」
掴まれた腕は痛いし、興味のない奴からの
大好きの気持ちも言葉も面倒くさい。
天と月乃と一夜が大好きで大好きで仕方ないおれを
ちゃんと認めて好きになる奴なんて、
そんな不利益を受け入れる奴なんて、
この世のどこ捜したって、いるわけないだろーが。
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