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第59話 戻る関係
よく晴れた平日、月乃達の通う高校では
無事に体育祭が行われていた。
開会式や進行なんかで天は忙しそうだったが、
月乃達は出場競技も少なく
グラウンドの端で競技を眺めていた。
「……お前らさ、暑くねぇの?
一応、今6月なんだけど……」
「ああ、雄星くん。
別にあんまり動かねぇし、大丈夫だ」
「体育祭でその発言はヤバくねぇか」
そんな月乃達の所へと近づいてきたのは
先日、月乃と和解した柴田だった。
そして近づくなり、柴田は顔を歪める。
月乃も千風もそれから風磨も、
首もとまでファスナーを上げ、長袖長ズボンという
姿で体育祭に参加していたからだ。
柴田の言う通り、6月だというのに、
妙に暑苦しさがあった。
「……汗冷えたら風邪引くぞ」
「風邪引いたら看病するから大丈夫だよ」
「あ、王子……」
「どうも、柴田くん。
それで……何の用だったかな?」
腕くらい捲れば、と月乃のジャージを捲ってやろうとしている柴田に
朝陽や一夜が割って入ろうとした時だ。
後ろから天が優等生の仮面を被って声をかけた。
にっこりと笑ってこそいるが、
どこか雰囲気が刺々しい天に、柴田はたじろぐ。
「月乃が、その、暑そうだったからさ……」
「そっか。
心配してくれてありがとうね。
でも、月乃、次の競技だから呼びに来たんだ。
連れてっても大丈夫かな?」
「あ、あぁ、いいぜ……」
「もう次だったっけか……?
あ、雄星くんありがとうな、また後で」
中学の時のように、と、すっかり打ち解けた月乃は
柴田に手を振って去っていく。
それに少しくすぐったそうにして返す柴田だったが
一夜や朝陽からは視線が刺さってしまう。
「じゃあ、俺はこれで……俺も次、出るから」
「うん、じゃあね柴田」
朝陽とは確実に一歩距離が生まれていたし、
一夜は話す気もなさそうで。
そりゃそうか、と、柴田の中では納得しているものの
この前月乃が複雑そうにしてくれていたなと
柴田はそんなことを思い出していた。
「ああ、雄星くん、こんなところに居たのか」
「……月乃?」
粗方の競技も終わり、昼休みに
柴田は一人、グラウンドの外の自販機近くに居た。
いつものグループで昼食をとってはいたが、
なんとなく周りに合わせて騒ぐ気にはなれずに
離れていたところだった。
そこに来た月乃は、何の警戒心もなしに隣に立つ。
「さっき、走る前とか、元気無さそうだったからな、
ちょっと気になってさがしてた。
その、大丈夫か……?雄星くん、最近あんまり
いつものグループに居ないよな」
「あー……まあ。
自業自得ってやつだし、大丈夫だよ。
つーかお前さ、俺のとこ来てていいの?
また駿河とか王子に怒られねえ?」
「大丈夫だ、ちょっとだけだし。
それに、また話せてるから俺は嬉しいぜ」
「……あのさ、お前、もし誰かに……
なんか、嫌なことされたら言えよ。
俺が言えた事じゃねえけど……その、
お前の事、護ってやるから……」
どこか気まずそうにしながら言う柴田に、
月乃は少し考えるような仕草をする。
そして、いきなり柴田の腕を掴んだ。
「月乃?」
「俺、人に触られんの無理なんだ、基本的に。
雄星くんも前は無理だった。でも今、平気だ。
俺はいいとこの坊っちゃんでもねえし、
ガキでもねえ、君の彼女でもねえ。
君に護られる義理なんてどこにもない」
「それは……」
「俺に気負わないでくれ。
俺は護るとかそういうんじゃなくて、
君と対等な友達でいたいから」
お人好しだと、柴田はどうしても思ってしまった。
自分がした事が消えるわけもなく、
月乃に与えた傷はそのままなのに、
友達なんて言える事が、強い、とも同時に思う。
中学の時のように、なんて無理だと思っていたのに
今こうして話せている事に、感謝してもしきれない。
「……お前の、好きそうな本、この前見つけたから。
その……今度、貸してやる」
「ああ、楽しみにしとく」
本人は断りこそすれ、もしも危険があれば
せめて自分が盾にくらいはなってやりたい、と
月乃に不器用な笑顔を返しながら
柴田はこっそりと心に決めた。
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