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第61話 2

    「ああ、そっか、もう衣替えの時期か」 朝、寮の部屋で着替えていると 天が月乃を見ながら思い出したように呟いた。 半袖のカッターシャツにベストという服装の月乃は インナーこそ着ているが、どこか雰囲気が違って見える。 「俺、お前の夏服好き」 「そうか?  別に君とそんなにかわんねぇけどな」 「お前が普段肌見せないぶん貴重っていうかさ」 合わせるように自分も夏服に替えた天は 月乃の腕をとると、その白い肌に自然な動作で口づけた。 「……君はなんつーか、キザな部分があるよな」 「そう?  別に普通だと思うけど……  ああ、確かに今までの彼女にやらなかったかもな」 「ふーん……。  というか肌なんて、小さい頃から  全部見せあってるようなもんなのに」 「あー、俺がキザならお前は本当にムードがない」 はあ、と天がため息をついた時 ちょうどドアが開いて一夜が顔を出した。 一夜もベストこそ着用していないが 夏服になっている。 「ああ、一夜、今日は早いね、おはよう」 「おはよ、一夜」 「ああ、おはよう……なんだ、二人も夏服か。  月乃の夏服、やっぱり好きだな」 「……君ら、同じ事言うよな本当」 おかしそうにくすくすと笑うと、 月乃達は準備をして学校へと向かう。 梅雨特有のじめじめとした空気に 気分が少し重くはなるが、途中朝陽も合流して いつものように笑いながら教室に入る。 「……っと、月乃、朝陽、おはよ」 「おはよー柴田」 「ああ、おはよう雄星くん……  悪い、ぶつかるとこだった」 「や、大丈夫。  あ、また後でな」 すると、扉の近くで月乃は柴田とぶつかりそうになった。 どこか慌てた様子の柴田を不思議に思いつつ 月乃達は柴田を見送ってから顔を見合わせる。 「あっちは保健室だけど……  雄星くん、どっか悪いのか?」 「さあ……どうなんだろ。  ま、授業までには帰ってくるんじゃない?」 笑いながらの朝陽の言葉に、月乃もそれもそうか、と 返して、特に気にせず席へと向かった。 昼休みに、まさにその事で頭を悩ませる事になるなんて 月乃はまだ、知らなかった。  

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