62 / 78
第62話 3
昼休み、月乃は焦った様子の柴田に
人目につかない校舎裏へと呼び出されていた。
少し顔を赤くして、そして周りを気にしている柴田は
いつもの明るい、そして月乃をいじめた柴田と
同一人物とは思えない。
「雄星くん、どうした……?」
「いや……その、リョータ達だとからかわれっから……
月乃なら、真剣に聞いてくれると思って……
あー、でも、引いても、他にばらさないでくれ」
「……ばらすような相手もいねぇけど……。
何か悩み事とかか?人間関係は得意じゃねぇぞ?」
「……、…………月乃、ってさ、男……いける?」
言いにくそうに沈黙して、それから
目をつむって首を左右に振ったかと思うと
柴田は意を決したように月乃の手を握って、
それから真剣に聞いてきた。
月乃は、予想の斜め上すぎる質問に
思わずきょとんとして固まってしまった。
「あー……っと……その、男子校だから……
偏見は、ねえ、けど……うん……」
「…………じゃあ聞いてくれ。
その、さ……ちょっと、なんか、
ここの先輩にさあ…………気になる人が居て。
でもその人……金もらって男とヤってるらしくて、
その噂、確かめに行ったらマジだったんだけど……
でもやっぱ気になっちまって……それで……」
「……悪い、初っぱなからついていけてねえ。
金もらってヤってるって……え?
何、つまり……えーっと?」
「だからっ!
セックスして金もらってんの、男と!」
がつん、と、頭を殴られたような衝撃だった。
自分も天や一夜とそういった経験はあれど、
まさか金銭を得る手段にするなんて
考え付きもしなかった、と月乃は困惑する。
それも柴田の口振りからして、学校で……
バレたらどうするんだ、なんて考えが浮かぶが
柴田の真剣な視線に気づいて月乃は気まずさから視線をそらす。
「……君、つまりその先輩が、好きだって?」
「……そう、多分、顔見て一目惚れみてぇな……
普段隠れてっし、怪我もあったけど……さ、
めちゃくちゃ顔熱くなってたまんねえから
多分好きなんだと思うんだよ」
「それで、その先輩が……金もらって、
男とたくさん、してる、って……?」
「そーなんだよ……!
俺、ショックで、でも嘘かもしんねぇって、
朝確かめに行ったら……真っ最中、で」
はあぁ、と、重いため息と共に踞る柴田の顔は
色黒な肌のせいでわかりにくかったが
かなり赤くなっていて。
うつったように月乃も顔を赤くしてしまうが
そもそも、そんなに性に奔放な相手が周りには……と
そこまで考えて、そういえば、と
同室の、少し前まで相手をとっかえひっかえしていた存在を思い出した。
「えーっと……君は結局、どうしたいんだ?」
「あ、いや……月乃さ、多分その人と、
わりと仲良さそうだから……だな、
なんでそんなことしてるかって、ちょっとでも、
知れねえかなって思って……」
「え、っと……待ってくれ、俺が……
話せる先輩って、一人しか……いねぇんだけど」
「……この前、保健室で会ったんだよ。
風磨先輩……その、浅原の、兄貴の……」
赤い、真剣な顔で言ってくる柴田に
月乃は、世間は広いようで狭すぎる、と
乾いた笑いとともに思ったのだった。
ともだちにシェアしよう!