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第63話 空っぽの行為

      まさか風磨に一目惚れをしていたなんて、と 月乃は昼休みに柴田に聞いた事を思い返して 少し重い気持ちになっていた。 風磨が何故、そういう行為で金銭を得ているか、 そんなの、事情を知っていれば大体の想像がついてしまう。 風磨は、接客業をするにはハンデのある外見だ。 勿論月乃は全く偏見など持たないが、 客からは心ない言葉を浴びせられる事の方が多いだろう。 「でも……全部、見せるんだよな」 けれど、そういう行為、となると当然、 服を脱ぐ事も、火傷が見えることもあるだろうに。 どうしてそっちを選んでいるのか、と 月乃はそこが純粋に気になった。 だから、つい、遠慮がちに風磨の部屋のドアをノックしてしまったのだ。 「……月乃くん?  珍しいね、いらっしゃい。  今、千風バイトだから、好きにあがって」 「あ、はい……失礼します」 どうやら兄弟で同じ部屋らしく、 風磨は千風がいないからと 月乃をいつかのように部屋へと招き入れる。 少し殺風景に思える部屋だが、すん、と 鼻先を擽るような香水のにおいがした。 「で、どうしたの?  何か悩み事?お兄さんに話してみるかい?」 「あー……っと、その、ですね……  先輩の、噂をちょっと、聞いたっていうか……」 「噂?やだなあ、何言われてるんだろ」 ココアを差し出しながら、くすくすと笑う風磨に 月乃は切り出すべきかどうか迷った。 触れられたくないだろう部分だと、わかっている。 けれど、知りたい気持ちもあった。 心配が大きいのだ、風磨に対しての。 「……風磨先輩って、その、金銭目的で、  いろんな相手とそういうこと、するんですか」 「…………あー、なるほど。  はは、そういう噂かあ。  ま、あれだけやってれば言われるか」 「体、見られるんじゃないかって、思って」 自嘲気味に笑う風磨に、月乃は俯きがちに返す。 すると、風磨は突如として、 まだ着替えていなかった制服のネクタイをしゅるりと緩めた。 「自分主体でヤれば、上なんて脱がなくてもある程度バレないんだよね」 「え、あ……そうなんですか」 「月乃くんは?  どっちがいいの、あ、俺は最初から  月乃くんとなら抱きたいなあって思ってたよ。  天くんと一夜くんにもネコなんだよね、  ならネコでいい……よね?」 「え、ちょっ、風磨先輩……?」 くすりと笑って、優しく月乃の体に触れてくる風磨。 違う、自分とこんなことをしてほしいわけじゃない、 そもそも天と一夜以外の相手とする気なんかないのに そう思って身をよじれば、風磨は少し 寂しそうな顔を月乃に見せた。 「……なんてね。  レイプから助けといて俺が襲ったなんて、  本末転倒もいいとこだよ。  心配してくれたのが嬉しくて……  この体、受け入れてくれる相手としたいのもまあ  事実だから、あながち嘘でもないんだけどね」 「……あの、なんでしてるんですか。  いや、生活費とかっていうのはわかります、  けどその……全部見られるじゃないですか。  だから、バイトの方がリスク少なくて……」 「……んー……依存性なんだよね、俺」 「へ……?」 苦笑しながら月乃から離れ、そして 月乃をぽんぽん、と撫でる風磨は また寂しそうな顔で笑った。 「セックス依存性。  気持ち悪がられても攻撃されても、  ヤったら全部忘れられて……ははっ、  最初に一回、こんな体でもお金稼げたらさ  味しめちゃってダメだね」 「……先輩……」 「あ、お金は勿論必要だよ、でもね、  そこに愛もなければヤれたらそれでOK。  相手に興味はないんだよ、いつも。  空っぽなんだ、あんなの」 何も感じない、と、泣きそうに笑う風磨に 月乃は心が痛むのを感じる。 何でも相談してきていいと言われた事に甘えて 相手の深い事情を掘り下げるなんて、 自分は何て事を、そんな気持ちでいっぱいだった。 「いつか、こんな醜い俺の事、  全部愛してくれる相手が現れたらなあ……  そうしたら、何も惜しまずに全部あげるのに」 「……俺でも居たんだから、絶対います。  俺は先輩を、醜いって思わねえから」 「ふふ……ありがと、月乃くん」 いつかのようにまた額を合わせられ、 月乃は遠慮がちに風磨の背中をそっと撫でた。 そうすると、優しく笑った風磨はどこか、 中学の頃の自分に似ている、と 月乃はそんな事を思っていた。  

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