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第64話 2
自分が勝手に言っていいことじゃない、と
月乃は柴田から聞かれた風磨の行為の理由について、
寮の廊下で立ち話をしながら俯きがちにそう返した。
柴田もそれには納得したようで、
頼んで悪かった、と月乃に謝ってから自分の部屋に戻った。
「なーに、悩んでんの~、月乃!」
「あ、朝陽……」
なんとかしてやりたい、と思いながら
小さくため息をついていると、がばり、と
後ろから突然朝陽に抱きつかれた。
どうやらご機嫌なようで、にこにこと笑う朝陽に
向き直るようにして月乃は癒しを求めて朝陽を抱き締めた。
「おっ、なになに、月乃積極的~」
「あー、いや……ちょっと今考え事してて。
煮詰まってたし、君にはこうすると落ち着く」
「えー、おれ癒しなの?
月乃と違って可愛くないのになあ」
くすくすと笑いつつも、朝陽は離れない。
どころか、首に腕をまわして、そう変わらない身長の
月乃の首にすんすんと鼻先を埋める。
「可愛いって……俺、君みたいに愛嬌もないぜ」
「えー?
月乃可愛いじゃん、おれらの中で一人だけ
ネコだし、ていうかバリネコだよね?」
「……風磨先輩も言ってたけど、ネコってなんだ?
俺が動物で例えると犬より猫って話か?」
「え?あー、違う違う。
ネコっていうのは…………って事」
「~っ!?
えっ、なっ、そういう意味……!
ていうか、一人だけって、君は……っ!?」
こしょこしょ、と、耳元でされた内緒話に
月乃は顔を赤くして狼狽える。
その反応に朝陽は満足そうににんまりと笑った。
「おれ、そっち側の経験なんかないもん。
男とヤったのはまあそんなにないけど……
でも抱く側しかやだからね~」
「君は、同じ側だと思ってたのに……
というか、男と経験あったんだな……」
「はは、ざーんねん。
あー、男とは、まあね、風磨となら、一回きり」
「え……っ!?風磨先輩と……!?」
今まさに考え事をしていた相手の名前に、
月乃は弾かれたように驚いて朝陽を見る。
そして、朝陽はあっけらかんと一言。
「おれ、一時期さ、風磨と付き合ってたんだよ。
まー……お互い本気じゃなくて、
当然、全然続かなかったんだけど
その時に一回だけシたよ」
「……そう、だったのか……」
「まあまあ、この話はいいじゃん。
おれ、それよりも最近の月乃の話が聞きたいな~」
にこにこと笑いながらはぐらかされたそれが
月乃は妙に気になって仕方がなかった。
風磨が、時々寂しそうにするのはもしかして、と
なんでもないような態度の朝陽を見ながら
また風磨の事を考えていた。
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