64 / 78

第64話 2

    自分が勝手に言っていいことじゃない、と 月乃は柴田から聞かれた風磨の行為の理由について、 寮の廊下で立ち話をしながら俯きがちにそう返した。 柴田もそれには納得したようで、 頼んで悪かった、と月乃に謝ってから自分の部屋に戻った。 「なーに、悩んでんの~、月乃!」 「あ、朝陽……」 なんとかしてやりたい、と思いながら 小さくため息をついていると、がばり、と 後ろから突然朝陽に抱きつかれた。 どうやらご機嫌なようで、にこにこと笑う朝陽に 向き直るようにして月乃は癒しを求めて朝陽を抱き締めた。 「おっ、なになに、月乃積極的~」 「あー、いや……ちょっと今考え事してて。  煮詰まってたし、君にはこうすると落ち着く」 「えー、おれ癒しなの?  月乃と違って可愛くないのになあ」 くすくすと笑いつつも、朝陽は離れない。 どころか、首に腕をまわして、そう変わらない身長の 月乃の首にすんすんと鼻先を埋める。 「可愛いって……俺、君みたいに愛嬌もないぜ」 「えー?  月乃可愛いじゃん、おれらの中で一人だけ  ネコだし、ていうかバリネコだよね?」 「……風磨先輩も言ってたけど、ネコってなんだ?  俺が動物で例えると犬より猫って話か?」 「え?あー、違う違う。  ネコっていうのは…………って事」 「~っ!?  えっ、なっ、そういう意味……!  ていうか、一人だけって、君は……っ!?」 こしょこしょ、と、耳元でされた内緒話に 月乃は顔を赤くして狼狽える。 その反応に朝陽は満足そうににんまりと笑った。 「おれ、そっち側の経験なんかないもん。  男とヤったのはまあそんなにないけど……  でも抱く側しかやだからね~」 「君は、同じ側だと思ってたのに……  というか、男と経験あったんだな……」 「はは、ざーんねん。  あー、男とは、まあね、風磨となら、一回きり」 「え……っ!?風磨先輩と……!?」 今まさに考え事をしていた相手の名前に、 月乃は弾かれたように驚いて朝陽を見る。 そして、朝陽はあっけらかんと一言。 「おれ、一時期さ、風磨と付き合ってたんだよ。  まー……お互い本気じゃなくて、  当然、全然続かなかったんだけど  その時に一回だけシたよ」 「……そう、だったのか……」 「まあまあ、この話はいいじゃん。  おれ、それよりも最近の月乃の話が聞きたいな~」 にこにこと笑いながらはぐらかされたそれが 月乃は妙に気になって仕方がなかった。 風磨が、時々寂しそうにするのはもしかして、と なんでもないような態度の朝陽を見ながら また風磨の事を考えていた。    

ともだちにシェアしよう!