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第74話 2

    慰めのように、何度か朔乃と口づけを交わした一夜は 満足したように唇を離す。 朔乃も満足げに笑って、一夜から少し体を離した。 「お前とこうするのも久しぶりだ、  天が素直になる前は、わりと……会えてたのに」 「お前も月乃だって考えるなら、  毎日会ってはいるけどな」 「俺に、朔乃なんて独占欲の塊みたいな名前つけて  別人に数えたのはお前だろ、イチ」 「まあ……まだ今は、別人みたいだから」 積極的に抱きついて拗ねたような顔をする朔乃に 一夜はくすくすと笑ってあやすような口づけをする。 本当に幸せそうなその表情は、 天や朝陽の前では決して見せることのないもの。 「……今日は、泊まってくのか?」 「あー……いや、ある程度で月乃に代わる。  天が不満がるとまた面倒くせぇしなぁ」 「そうか。  月乃は大丈夫そうなのか」 「さあ?  今は傷ついてっけど……まあ、  もうちょいしたら慣れるんじゃねーの、  いつもの事だろ」 さして興味もなさそうに言うと 朔乃は甘えるように一夜へと頬擦りをする。 月乃とは違う、あまりに素直なスキンシップ。 「天が他に恋人が居る事に慣れたら、  また朔乃には会えなくなるな」 「……最近、お前に愛されてない」 「心外だな、いつもちゃんと愛してるのに」 「月乃がお前をちゃんと好きになってから、  お前からの気持ちが渡されなくなった。  お前からの好きが心から嬉しくなってから、  月乃は俺にわけてくれない」 今度は寂しそうにはらはらと泣く朔乃は、 本当に月乃のまともな感情が詰め込まれているようで。 朔乃は月乃を知っていて、月乃は朔乃を知らない。 仕方がない、歪な関係。 それでも朔乃は、一夜からの好きが欲しかった。 「俺が主体になったら、イチは悲しむよな」 「……どうかな。  そうなると月乃が消えそうで、怖いな」 「俺だって、消えたくない。  お前を月乃に、渡したくない」 「……お前も月乃も、俺は大好きだよ」 どうしようもなく悲しそうに眉を下げた朔乃の頬を 包むようにして一夜はまたキスをした。 そして、それに嬉しそうに頬を綻ばせた朔乃は 俺もだ、と言って、ゆっくりと目を閉じた。 「……、……あれ、一夜?  ああ、そうか、俺は君のところに  相談に来てたんだったかな」 「ああ、そうだな。  ……落ち着きそうか?月乃」 「ん……。  ああ、大丈夫だ。  ははっ……なんか気持ちが軽くなったな、  君は本当すげぇな……君といると幸せになる」 「そうか、それはよかった」 ぱちりと目を開いたのは、月乃で。 不思議と楽になった気持ちに笑うと、 一夜も笑って、その腕の中に月乃を閉じ込める。 すると、月乃は落ち着かなさそうに身をよじった。 「……君に、こうされるのは……  幸せ、なんだけど……まだ慣れないな……  君のにおいでいっぱいになるから、恥ずかしい」 「…………っ、はは……本当、月乃は可愛いな」 「慣れてる方が、好きなのか……君は」 「……いや?  月乃なら、慣れてても慣れてなくても、大好きだ」 あまりにも、違う反応。 一夜はそれに、本当に幸せそうに笑う。 できることなら、二人とも愛せるのは自分だけで あってほしいと、こっそり思って、 慣れずに戸惑う月乃の唇を、また奪った。    

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