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第76話 不調

    「なあ月乃、聞いてる?」 「えっ……ああ、悪い、なんだった?」 ここ最近、どうも集中ができない、と 月乃は頬杖をついていた顔を 弾かれたようにあげて、自分に話しかけていたらしい朝陽を見た。 心配そうに眉を寄せる朝陽になんでもないと笑って、それから朝陽の話を聞く体勢に入る。 「……って話でさあ!凄かったの!  ……、……でも月乃、本当大丈夫?  あんまり顔笑ってないんだけど……」 「昨日、寝不足でさ。  まあ大丈夫だ、テストもちゃんと勉強したし」 「そう?  本当に無理はすんなよ、なっ?」 「ああ。君も……テスト頑張れ」 今日から期末テストだと朝陽にぎこちなく笑えば 朝陽はそれ以上の追及をしなかった。 月乃が朝陽の話に集中できなかったのは 頭のなかを占める天の事が原因だ。 結局、天が外泊した日以降、月乃は一人でずっと 天の事を考えてしまっていた。 あの美少女は誰なのか、何故黙っているのか 外泊をするほどの関係なのか、なんて そんな事ばかりが頭のなかを巡る。 それ故に、月乃はテストにもほとんど集中できなかった。 * 「う、嘘っ、月乃の名前載ってない!」 数日後、テストの上位者の順位が貼り出されている廊下で動揺した声をあげたのは 赤点がなかったと喜んでいた朝陽で。 その隣では、一夜と天が目を見開いて、 居心地が悪そうな月乃を凝視している。 「……お前、何かあったの」 「いや……別に。  ヤマが外れただけだ、赤点はなかったし」 「お前はそんな、ヤマ張るような博打は  しないはずなんだけど?」 「今回は苦手なところが多かったからな」 疑うような天から逃げるように、 月乃は目をそらして朝陽に他愛のない話を振る。 唯一、月乃に話しかけなかった一夜は そんな月乃の様子を見たあとに視線を天に投げた。 「なあ天、数日、月乃を俺のところに  泊まらせても大丈夫か?」 「は?  大丈夫なわけないでしょ、なんで?」 「…………今は天のところは、  居心地が悪そうだろう?」 「…………あぁ?」 びり、と、空気が張る。 悪く笑った一夜と、青筋をたてそうな天の会話は 周りには聞こえず朝陽も月乃も気づいていない。 朝陽と談笑する月乃を横目に見て、 一夜は口の端を吊り上げて言葉を続ける。 「俺はな、お前の苛立ちなんかどうでもいい。  あとお前からの好意もなくて構わない。  今お前のところに月乃をおいておくと、  壊されそうだから俺が預かる」 「月乃の不調原因が俺だとでも言いたいの?」 「まあな。  ……月乃を好きだって言っておいて  他に女がいるお前が原因だと思ってるよ」 「は、っ……?  何だよお前、まさか、アレ見てたの?」 心当たりがあるようにため息をつく天に、 一夜はゆっくりと目を閉じてから 改めて天を見据える。 「俺じゃない」 「何……」 「月乃が、見てた」 「……っ!!」 ひどく、動揺した瞳。 揺れるそれは、事実だと白状しているようで。 一夜はため息をついてから、 少しばかり低い声で天に言葉をかけた。 「月乃、数日、こっちにもらうな」 今度は、拒否の返事がなかった。    

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