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第8話
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自宅の門扉に手をかけたら、背中を軽く叩かれた。振り返ると浩司兄ちゃんがいて「今帰りか?」といつものように話しかけられる。
「……そうだよ」
顔を背けながら気だるげに答えて、中に入ろうとしたら、いきなり腕を掴まれた。
「ちょっと話がある。そこの公園までついてきて」
「悪いけど、浩司兄ちゃんとふたりきりになりたくない」
怜司とふたりきりになって、嫌なことをされたあとだからこそ拒否ったというのに、掴まれた腕を振っても、ビクともしない。
「公園なら、他の奴の目があるだろ。それに昨日みたいなことは、絶対にしない。約束する」
目の前に差し出された小指を、横目で見る。子ども頃なにかあると、浩司兄ちゃんはいつもそうやって僕に言うことを聞かせていた。
ここで僕が嫌だと言ったところで、怜司のような脅しじゃなく、頭のいい浩司兄ちゃんは違う方面から説得することがわかる。
真摯な彼らしい交渉術に「わかった」と一言呟いて、一緒に公園に向かった。
僕に気持ちを告げて、平然と手を出す怜司と違い、余裕のある浩司兄ちゃんの態度に、少しだけ救われる。同じように迫られたりしたら、僕は外に出ることさえできなくなってしまうだろう。
「龍の顔、随分と疲れてるな。怜司となにかあった?」
すぐそばにある公園に向かう道すがら、気遣うように訊ねられた。
「昨日の今日だし、避けるのが普通でしょ? それなのに怜司が動画のことを口にして、僕に嫌なことをしたんだ」
「そっか。それは悪かったな……」
浩司兄ちゃんはぽつりと謝ったあと、なにも喋らなかった。
並んで公園に入り、砂場近くのベンチに腰かける。目の前には楽しそうに遊ぶ小さな子どもたちが数人いて、それを見守る母親たちもいた。安心して浩司兄ちゃんと話すことのできる環境と言える。
「龍、昨日のことも含めて悪かった」
言いながら浩司兄ちゃんは、僕に向かって頭を深く下げた。
「今さら謝ってもらっても、昨日された行為は消すことができないし」
「怜司が龍に手を出してるのを見て、カッとなった。止めなきゃいけない立場だったのに、 先を越されたのが焦りにつながってさ」
「そんなこと言われても……」
「アイツとは龍の誕生日まで手を出さないように、協定を結んでいたんだ。ふたりそろって、龍に告白してからって」
(その協定を、怜司は無にしたのか――)
「…………」
「あのさ、感じることをされたら、男なら反応するのは当然だけど、その……。異性じゃなく同性で勃つ意味をわかってほしい」
「そんなの、絶対に普通じゃない!」
「龍の言うとおりだ。普通じゃないから、俺たちの本気をわかってほしいんだ」
下げた頭をあげて、僕の目を見ながら説明した浩司兄ちゃんに見せつけるように、眉根を寄せた。
なにを言い出すのかと思ったら、自分たちの気持ちについてなんて、そんなの迷惑に決まってるのに。
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