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第32話
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「龍?」
階段をおりながら浩司は声をかけたが、返事はない。寝てることを確認するために、もう一度名前を呼んでみても、玄関下は静まり返ったままだった。
「怜司、龍は寝たみたいだ!」
怜司の部屋に向かって浩司が話しかけたら扉がすぐ開き、怜司は階段の途中にいる浩司を追い抜いて駆けおりた。突っ伏した状態で眠る龍を抱き起こしながら、ゆっくりおりてきた浩司に問いかける。
「一階の和室、準備はできてるのかよ?」
「ああ。ビニールシートの上に、マットレスを配置済み。ローションやゴム・首枷に手錠やティッシュやタオル類も、すべて揃ってる」
浩司の落ち着いたセリフを耳にした怜司は、龍を横抱きにして持ち上げた。
「兄貴は和室の扉を開けたあと、玄関に放置してる龍の勉強道具をカバンにしまってやってくれ」
今後の行動を怜司が指示した途端に、目の前にある顔が嫌そうに歪んだ。
「俺も龍の服を脱がせたい……」
「兄貴が玄関で片付けしてる間に、俺はキッチンに移動して、冷蔵庫から飲み物を和室に用意する。兄貴と顔を突き合わせたあとに作業を開始するから、安心してよ」
怜司は抱き上げた龍の躰をしっかり抱き直してから、浩司に背を向ける。自分よりも少しだけ細身の背中に、浩司は話しかけた。
「水分補給のことまで考えてるなんて、ちょっと驚いた」
「中二のときに、部屋で龍を襲ったろ。喉が乾いたことを思い出してさ。兄貴とふたりして龍を貪ったりしたら、キッチンにわざわざ移動する時間すら惜しく感じるのは、目に見えたからさ」
言いながら怜司が胸元にいる龍に視線を落としたタイミングで、浩司は怜司の背中から龍に視線を注ぐ。少しだけ微笑みを湛えて眠る姿に、ふたりして喉を鳴らした。
「兄貴、和室の扉――」
「ああ、入りやすいように全開にしとく」
素早く身を翻した浩司は奥の和室に進み、扉を大きく開け放ち、もと来た廊下を歩く。入れ替わりに、龍を横抱きにした怜司とすれ違った。
事前に打ち合わせしたとおりに、それぞれが素早く動き、分担した仕事を終えて、マットレスに横たわる龍の傍らに左右にわかれて座り込む。
「寝てる顔、すげぇかわいい。龍にキスしたい」
怜司は龍の薄い唇に、利き手の人差し指で触れながら告げた。
「薬の効き目が切れる前に、セッティングを終えたい。ガマンしろ」
「わかってるよ。兄貴は下を脱がして。俺は上を担当する」
「怜司ってば今回、俺に命令ばかりしてるな」
怜司に言われたとおりに浩司は龍の下半身に移動し、履いてるジーパンに手をかけて、丁寧に脱がしにかかった。
「だって俺はアッチの経験が、ほぼない状態だからさ。コトがはじまったら兄貴に頼るしかないわけだし、準備ができるまでは自分から動かなきゃって、いろいろ考えた」
「さすがは俺の弟、よく考えてるのな。シャツを脱がしたら、そこに置いてる首輪を緩めにつけてやってくれ」
「了解。首輪に繋がってる左足の足枷は、兄貴にまかせるよ。右は俺がやる」
こうして眠りこけた龍をふたりの手によって全裸にし、首輪を取りつけてから左右の足枷を太ももにきっちりつけて、抵抗できないように施した。
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