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第13話 いけないこと
意識が浮上したのが分かった。
僕は瞼をゆっくりと持ち上げた。
「よく眠れたか?結斗」
その声に慌てて顔を向けると、僕の隣には朝から爽やかな、それでいて何処か色気を漂わせる海里おじさんが居た。
僕の髪を長い指で絡め取りながら、微笑んでいる。
「今日も二人でゆっくりと過ごそうな」
その言葉に僕は、ハッと我に返った。
「お、おじさんっ、出ていってよッ!」
「…急にどうした」
おじさんが不満に口を尖らせる。
「だって、翔が帰って来たんだよっ?二人で同じベッドに寝てたら変に思われるよ!」
慌てる僕を見て、おじさんが笑う。
「結斗は心配しすぎなんだよ」
「いいから、早く!」
そう言いながら、おじさんの逞しい胸板を押し返す。
おじさんは、我が儘な子どもを相手にしている風な感じで、僕の鼻を指先でチョンッとつつく。
「仕方無い。結斗は恥ずかしがりやだからな」
やれやれと言ったおじさんは、僕の頭を撫でるとチュッと断りもなくキスをした。
それから「後でシャワーを浴びるんだよ」と、夜中にあった出来事が夢でもなく本当の出来事だったと、改めて認識させてくれたのだった。
おじさんが出て行ってから、僕は大きな溜め息をついた。
どうしておじさんと肌を合わせる事になってしまったのか。
僕には、こうなった原因が思い当たらない。
急にどうして?としか思えなかった。
このままだと、本当におじさんとセックスをしてしまうのではないか…?
そんな恐ろしさがどんどんと沸き上がってきた。
翔が予定を変更して、帰ってきてくれて本当に良かった。
それが無かったら、僕は…。
直ぐ家に帰ろう!
そう思い素早く着替え始める。
とにかく、近江家を出なくては!
自分の家に帰って、これからの事を考えよう。
性的経験どころか恋愛経験すら無い僕が、百戦錬磨のおじさんに敵う筈もない。
冷静になってから、ゆっくりと頭を働かせなくちゃならない。
僕は、おじさんとエッチな事をした。
これはいけない事なんだ。
だって、おじさんは大人で、奥さんと子どもが居て…第一に男だ。
僕は着替えを済ませると、部屋を出る。
こっそり隣の部屋を覗くと、翔はまだ寝ていた。
その事にホッと安堵する。
静かに階段を下りると、様子を伺う。
浴室からシャワーの音が微かに聞こえた。
おじさんがシャワーを浴びていると思うと、居たたまれない気分になってくる。
僕はリビングに入ると、置いてあるメモ用紙に『今日は帰ります』とペンを走らせた。
それをテーブルに置くと、慌てて玄関を抜ける。
自宅へ戻る。
そこで思った。
ここに居たら、おじさんが迎えに来るんじゃないのか…。
僕は急いで身支度を整えると、鍵を掛けて外へ出る。
そして自転車に乗ると、風の様に住宅街を走り抜けた。
おじさんから逃げるために。
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