13 / 131

第13話 いけないこと

意識が浮上したのが分かった。 僕は瞼をゆっくりと持ち上げた。 「よく眠れたか?結斗」 その声に慌てて顔を向けると、僕の隣には朝から爽やかな、それでいて何処か色気を漂わせる海里おじさんが居た。 僕の髪を長い指で絡め取りながら、微笑んでいる。 「今日も二人でゆっくりと過ごそうな」 その言葉に僕は、ハッと我に返った。 「お、おじさんっ、出ていってよッ!」 「…急にどうした」 おじさんが不満に口を尖らせる。 「だって、翔が帰って来たんだよっ?二人で同じベッドに寝てたら変に思われるよ!」 慌てる僕を見て、おじさんが笑う。 「結斗は心配しすぎなんだよ」 「いいから、早く!」 そう言いながら、おじさんの逞しい胸板を押し返す。 おじさんは、我が儘な子どもを相手にしている風な感じで、僕の鼻を指先でチョンッとつつく。 「仕方無い。結斗は恥ずかしがりやだからな」 やれやれと言ったおじさんは、僕の頭を撫でるとチュッと断りもなくキスをした。 それから「後でシャワーを浴びるんだよ」と、夜中にあった出来事が夢でもなく本当の出来事だったと、改めて認識させてくれたのだった。 おじさんが出て行ってから、僕は大きな溜め息をついた。 どうしておじさんと肌を合わせる事になってしまったのか。 僕には、こうなった原因が思い当たらない。 急にどうして?としか思えなかった。 このままだと、本当におじさんとセックスをしてしまうのではないか…? そんな恐ろしさがどんどんと沸き上がってきた。 翔が予定を変更して、帰ってきてくれて本当に良かった。 それが無かったら、僕は…。 直ぐ家に帰ろう! そう思い素早く着替え始める。 とにかく、近江家を出なくては! 自分の家に帰って、これからの事を考えよう。 性的経験どころか恋愛経験すら無い僕が、百戦錬磨のおじさんに敵う筈もない。 冷静になってから、ゆっくりと頭を働かせなくちゃならない。 僕は、おじさんとエッチな事をした。 これはいけない事なんだ。 だって、おじさんは大人で、奥さんと子どもが居て…第一に男だ。 僕は着替えを済ませると、部屋を出る。 こっそり隣の部屋を覗くと、翔はまだ寝ていた。 その事にホッと安堵する。 静かに階段を下りると、様子を伺う。 浴室からシャワーの音が微かに聞こえた。 おじさんがシャワーを浴びていると思うと、居たたまれない気分になってくる。 僕はリビングに入ると、置いてあるメモ用紙に『今日は帰ります』とペンを走らせた。 それをテーブルに置くと、慌てて玄関を抜ける。 自宅へ戻る。 そこで思った。 ここに居たら、おじさんが迎えに来るんじゃないのか…。 僕は急いで身支度を整えると、鍵を掛けて外へ出る。 そして自転車に乗ると、風の様に住宅街を走り抜けた。 おじさんから逃げるために。

ともだちにシェアしよう!