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第84話 ソワソワする気持ち

射精してグッタリした僕の体を濡らしたハンカチで丁寧に拭いてくれる。 情事の後は、また外が静かになっていた。 鼻唄の出ているおじさんが、拭き終わった僕の服を綺麗にしてくれた。 「よし、完了~♪」 「あ、ありがとう?」 「どういたしまして」 って、おかしくない? 元を辿れば、おじさんが映画の最中にセクハラしてきたのが原因じゃないか。 「さ、結斗。立てる?そろそろ出ようか」 僕が感謝するのは間違いだと思うけど…まぁ、いいか。 おじさんの顔を見たらもう、どうでもよくなってきた。 「あ、マズイな…」 「ん?」 おじさんの言葉に首を傾げて、視線を辿ると、僕の服は皺になっていた。 服を上げたり、変な姿勢になっていたりしたからだ。 せっかく買って貰った服が…。 「これから食べに行こうと思ってたんだけど…ん~…よし!」 おじさんはひとりで納得したらしい。 ニコッと笑うと僕の腕を引いて立たせてくれる。 それから鞄を持つと、個室を出た。 「手、あと顔も!」 便器の蓋についた場所は流石に嫌なので、ゴシゴシと洗う。 洗うとトイレを出た。 「怪しまれるかな?」 クククッと笑うおじさんを見上げる。 「防犯カメラが…だから、ね」 「…あっ!」 館内の至る所に防犯カメラが設置してあるから、長い間トイレに二人で籠ってるのに気づかれたら…。 「まぁ、防犯カメラをガン見してる警備員なんていないから。大丈夫だけどね」 可笑しそうに言うけれど、僕は少しソワソワしながら歩く。 映画館の人、怪しんでないよね…? 僕は歩きながら周囲の視線が気になって仕方なかった。 見られてる気がして…。 なので、気持ち海里おじさんの背後に隠れた。 「どうした?」 「…何でもない」 そんな僕の様子に、おじさんは苦笑した。 おじさんのせいなのに~ッ! 睨んでみたけど、効果なし。 僕は俯いて顔を隠して歩くことにした。 自意識過剰みたいだけど、もしかしてバレてはないよね? トイレで変なことをしたなんて…。 大丈夫とは思っても恥ずかしいし、ソワソワしてしまう。 僕は他の人にぶつからないように、おじさんの服の裾を握って俯いたまま歩いた。 「早くここから離れたい…うぅっ」 後で分かった事なんだけど、そんな行為が却って目立っていたなんて…。 僕は知りませんでした。 知ってたらやらなかったのに~。

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