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第87話 手を繋いで

立ち止まって見つめ合った。 これじゃぁ、余計に目立つ。 夜の店内は益々賑わっていて、横を通り過ぎる人達が僕たちを物珍しそうに眺めていく。 「恥ずかしくないよ?」 おじさんが優しく微笑んだ。 それから握っていた手を持ち上げると、もう片方の手で覆い隠す。 そして上下に軽く揺らした。 「手を繋いでいて何がいけないの?」 男同士だから…。 「男同士で繋いだらいけないって、誰が言ったの?」 言われてないけど…、でも皆に見られてるし。 「言われてないだろう?見られていても問題無いよ。それは俺たちの気持ちの問題。恥ずかしいと思うなんて…結斗はおじさんの事を恥ずかしい人間だって思ってるんだ?」 そんなことを言われて、僕は首を振って否定する。 「は、恥ずかしくないよ!?おじさんはカッコよくて、優しくて、自慢の…こ、恋人だから…」 言ってから恥ずかしくなって、カカァーッと顔が熱くなる。 きっと顔が赤くなってるはず。 「誉めすぎだ」 おじさんが苦笑した。 そんなことは無いもん。 事実だし。 「俺はね、カワイイ結斗と手を繋いでデートの思い出を刻みたい。だから、離されると淋しいよ」 おじさん…。 「時と場合は確かに必要かもしれないよ?だけど初めてのデートだし、ここは不特定多数の人間が居る場所で、全員が俺たちを見てるわけでも責める立場でもない」 おじさんが僕の手を握り直した。 「好きな人と手を繋いで歩く権利を誰に憚る必要がある?」 うん。そうだよね。 男女の恋人同士が良くて、男同士がダメなんて。 「ほら、女の子同士も手を繋いでるよ?」 言われて視線を向けると、女の子同士が腕を組んでキャァキャァ楽しそうに話ながら歩いているのが見えた。 「ほら、デートの続きを楽しもう?」 何をそんなに拘ってたんだろう…。 そんな風に思わせてくれる海里おじさんって、やっぱりスゴい。 おじさんはカッコいい顔を改めて笑顔に変えると、僕の隣に立った。 「ん~、結斗を哀しませたヤツラはどいつだ?」 「お、おじさんッ?!もういいよ、大丈夫だから!」 慌てて制止に入ると、おじさんは納得出来ないのか周囲へ視線を巡らせる。 あわわわっ。喧嘩にならないよね?! 慌てておじさんと周囲を交互に見回してみると、心配無かったみたい。 おじさんはニコニコッと笑顔を浮かべていて、視線の先の僕たちを小馬鹿にしていた人達が例のメロメロ~な表情でこっちを見てたんだもん…。 「結斗。俺たちの事、誰も気にしてないみたいだから大丈夫だ」 うん。 僕たちの事はどうでも良くなったみたいだね。 ただ、おじさんの事を別の意味でどうでもよくは無いみたいだよ? 「おじさん…フェロモン出てるの?」 僕が冷静になった頭で言うと、おじさんはさっきと違う笑顔を浮かべた。 「は?そうだなぁ、結斗と居ると嬉しくて特別なフェロモンが出てるかもな」 僕と一緒だと出るの? 何それ? 「結斗を誘惑したいからね」 「…ッ?!」 僕は、またまた顔を赤くして俯いた。 おじさん…恥ずかしすぎる。

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