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第88話 ホテル
それから二人で手を繋いで、駐車場へと向かった。
ただ、お店を見ながら歩いただけなんだけど、手を繋いでいるだけで本当に幸せな特別な気持ちになった。
「結斗、一旦ホテルに向かうから」
この後、ご飯を食べに行くって言ってたのに?
「ディナーの予約はしてるんだが、流石に服が…」
苦笑いを浮かべながら、おじさんが僕を見る。
つられて僕も見ると、服がなんとなく皺になってる。
リボンタイもヨレヨレだし。
「俺の服もちょっとな」
そんな理由から一旦馴染みのホテルへ行って服を綺麗にして貰うみたい。
「あとはフェロモンだな」
「フェロモン~?」
僕が目を丸くすると、おじさんがニヤリと例の笑い方をする。
「エッチな事をしたからフェロモン出てるからな。あと精液の匂いがバレるから」
「えええっ!!?せ、精、…匂うの?!」
「モールだと色んな店の匂いがごちゃ混ぜだし、客もそれに見合った人間ばかりだろうけど。高級店は、そうはいかないからな」
そうなんだ~。
「自分の店の匂い以外には敏感だからね。特にエッチな匂いは濃厚だし」
「う、ウソ…」
そんなものとは知らなかった。
僕は次にエッチな事をしたら、注意しなくちゃと心に強く思った。
まぁ、おじさんが居るからその辺は大丈夫だろうけどね。
そうして車は再び走り出し、夜の街をスイスイと進んだ。
それから10分位して大きなホテルが見えてきた。
…ってここ?!!
ここって、よくテレビに紹介されたり、ニュースで各国のVIPが泊まったとか、日本の代表的で有名な『大日本ホテル』じゃないの?!
僕が驚きに目と口を開いている間に、車は静かにホテルのエントランスへと横付けされた。
「!!」
助手席が外側から開けられて驚く僕に、おじさんが「降りるよ」と声を掛けてきた。
「こんばんは。ようこそお越しくださいました」
降りる僕の為にドアを支えていた制服姿の男の人が声を掛けてきた。
これって、テレビで見たことある。
ドアボーイさんだ。
「近江様。鍵をお預かり致します」
そう言って、おじさんから車の鍵を受け取る。
「近江様」って、顔を見ただけなのに…名前覚えてるって事?スゴい!
車はホテルの人が移動してくれるってこと?スゴい!!
スゴいしか言えない。
「お荷物は?」
「大丈夫」
「畏まりました。どうぞ…」
訊かれて応えた後、おじさんは僕の腰に手を添えてエスコートしてくれた。
正直、ホテルの豪華さや格式に圧倒されていた僕は、おじさんの手を頼りに促されるまま歩いた。
先導するのが、ドアボーイさんから今度はベルボーイさんへと交替。
フロントへと向かう。
重厚な造りの高級感の中にも落ち着きをもったホテルのフロントには、ピシッと礼服を身に付けた男の人が三人居た。
すると、その横からひとりの男の人が出てきたと思うと僕たちへと向かってきた。
「近江様。お帰りなさいませ」
お、お帰りなさいませ~?!
ホテルなのに~?
僕はポカンとして様子を見ていた。
礼服を身に付けたその初老の男性は、物腰柔らかな印象で、僕たちに笑顔で丁寧に頭を下げた。
胸元のプレートには坂崎とある。
坂崎さんかぁ~と思いつつプレートには、もうひとつ書いてある。
何々?
支配人…ッ!?
「うん。世話になるね」
呆気に取られている僕に気がつかず、海里おじさんは支配人に向かってニッコリと笑った。
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