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第90話 気にしない
なんだか夢心地で夜景を見ていたら、おじさんが肩を軽く叩いてきた。
「結斗。服をクリーニングしてもらうから脱ぎなさい」
「クリーニング?」
そんなことも出来るの?
「夕食迄にシャワー浴びてスッキリしておこう」
言われてみれば、それもそうだ。
映画のトイレでおじさんとエッチな事をした後は、水に濡らしたタオルで拭いただけで何となく気持ち悪い感触が残ってる。
それに、匂いがするとかおじさんが言ってた…匂い…ッ?
「あーっ!!」
「ん、どうした?」
急に大声を出してしまった僕に、おじさんが少し驚いた様子で目を丸くした。
「お、おじさん~!もしかして僕たちの、その~…エッチした後の、せ、せ、…き」
「ん?」
「せ、…えきの…」
「あぁ、精液?精液がどうしたんだ。まだ足りない?」
おじさんがエッチな顔でニヤニヤ笑う。
「ち、違うよ!ただ、さっきのホテルの人にも匂いでバレちゃったかと思ったの!!」
本気で焦っている僕とは反対に、おじさんは平然としている。
なんでそんな顔で居られるんだろう?
いつも余裕なおじさんが、今はちょっと憎らしい。
「気にしなくていいよ。客はあくまで客。お前に“お客様。お連れ様とセックスされましたか?匂いが致しますよ”なんて言うわけがない」
まぁ、そうだけど…。
「第一に、このホテルには俺たちみたいな恋人同士から夫婦、愛人や不倫相手と泊まりに来るヤツラも多い。そんなヤツラが何もせずに帰ると思うか?」
ドキッ…
不倫。
その言葉に心臓がキュッとなる。
恋人同士という単語よりも、不倫という言葉は…ツライ。
僕の気持ちには気がつかず、おじさんが一気に捲し立てる。
「セックスしてるよ。セックスでシーツはドロドロ。コンドームがごみ箱に山積みだから、ホテルの人間は慣れてるよ。気にしない、大丈夫だから」
「う、ん」
不倫の言葉が頭に残った。
それに加えて、おじさんの持論による大丈夫という確信に対して、本当に?と疑いつつ頷くと、おじさんが肩を抱いてきた。
「よし。シャワー浴びるか!」
そう言いながら大きな部屋を横切る。
浴室へ向かう途中にもダイニングらしい部屋があるし、奥にも部屋があるみたい。
僕の家より広い…。
そして浴室へ辿り着くと、そこでもビックリしてしまう。
お陰で僕は不倫に対しての罪悪感の様なものを忘れてしまう。
子どもなんだと思う。
「…凄い…」
大理石の様なタイルに金色の細工。
大きな鏡に、広い脱衣場の床には足に心地好いマット。
ガラス張りの向こうには大きな浴室と、シャワールーム。
「結斗。さぁ、脱いで」
おじさんが耳元で、そう言った。
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