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第98話 感覚の違い

あれから僕は、ブツブツと文句を言うおじさんを放っておいてシャワーを済ませると、用意してある浴衣に着替えた。 バスローブもあったけど、似合わないのに着る勇気は無かったからだ。 何部屋もある中で、僕は近くのふたつベッドの入っている寝室へと足を向けた。 そして、ベッドへ腰掛けて部屋の様子をキョロキョロ見ながら待っていた。 そこへ案の定おじさんが、バスローブ姿で現れた。 ドラマでしか見たことない姿。 だけど、おじさんが着ていると違和感が無いから不思議だ。 違和感どころか、似合いすぎてフェロモン全開で恐ろしかった。 誘蛾灯に吸い寄せられる蛾の様に、花の蜜に集まる蝶かもしれない。 とにかくフラフラ~っと、意識を持っていかれそうな勢いだったんだ。 ピリリリリッ… そんな僕を我に返したのは、室内に響いた電子音だった。 「?!」 何の音かと驚く僕とは違い、おじさんは室内ある電話を受ける。 「ちょっと待ってて」 おじさんに言われて少し待っていると、何やら誰かと話をしている。 「結斗!こっちへおいで」 どうしたんだろう?と思っていたら、おじさんが向こうから声を掛けてきた。 話は終わったみたい。 僕は立ち上がると、寝室を抜けて廊下を歩き、もうひとつ部屋を横切り始めに入った大きな部屋へと辿り着く。 そこにはバスローブ姿のおじさんが待っていて、僕を笑顔で迎えてくれた。 どうでもいいけど、イチイチ絵になる。 この高級感溢れる場所にバスローブ姿のイケメン…何処かのドラマも映画も顔負けだと思う。 「結斗、この箱を開けてごらん」 「箱?」 大きなテーブルには、白くて四角い箱が置いてあった。 ツルツルとした表面に室内の灯りが反射していて、掛けられた水色の可愛らしいリボンも光沢を帯びていて、不思議な世界を醸し出していた。 「…何、この箱?」 「ふふっ、いいから開けて」 おじさんは質問には答えずに、再び僕を促す。 そこまで言うなら…と、リボンへ手を伸ばす。 指で引っ張ると、リボンは簡単にスルスルと解けた。 リボンを脇へ置いて、今度は箱の蓋を手にして開けてみる。 「えっ?!」 開けてみると、中には真新しい洋服が丁寧に折り畳んで入れてあった。 「結斗にプレゼントだよ」 プレゼントと言われて驚いた。 だってさっき洋服をプレゼントされたばかりなのに、またプレゼント? しかも今度の服も高級そうなモノだ。 高級そうではなくて、絶対に高価なモノに違いなかった。 「流石にクリーニングは間に合わないからね。結斗に合いそうな服を急遽頼んだんだよ」 急遽、頼んだ~ッ? 「ほら結斗、出して着てみて。さっきの店に頼んだから、きっとサイズは間違いないはずだから」 唖然として物も言えない。 「…気に入らないか?」 言葉の出ない僕に海里おじさんは勘違いしているらしく、どこか心配そうに聞いてきた。 …幾らしたのかな、この服…。 僕は、別の心配をするのだった。

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