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第100話 場違い
おじさんに腕を掛けるように促されたけど、流石に男同士でする勇気もなくて、僕は斜め後ろを着いていく形を取った。
新しく買って貰った靴はデザインも素敵だし、サイズもピッタリ。
服も今まで着たことのないタイプだから、おじさんの冗談である『王子様』と言われることにも気分が良い。
連れ立ってエレベーターへ乗ると2つほど下の階へとボタンを押した。
「ここのフレンチは、3つ星シェフが実際に厨房へ立ってるんだよ」
「へぇ~!そうなんだ?!」
3つ星シェフなんて縁の無い僕は、楽しみでワクワクしながらエレベーターのドアが開くのを待っていた。
2つ下の階へと着きドアが開くと先に降りるように促され、後からおじさんが降りた。
降りた先はうっすらと暗い。
間接照明に照らされて、独特の雰囲気を醸し出していた。
視線をやると、左右に分かれている廊下の先に小さな立て看板と背後にディスプレイ。
「あっちは天麩羅の店で、こっちにフレンチの店が入ってるんだよ。因みに上の階にはバーラウンジ、下の階には中華と地中海創作料理の店があるよ」
おじさんはそう言うと、左へと歩き出した。
僕もふかふか絨毯を踏みしめながら着いて行く。
小さな看板には、お店の名前とメニューが書いてある。
2つのコースがあるらしい。
「え」
目を疑うけど、間違いなくて…。
「値段…高ッ!」
「結斗、こっちだよ?」
すると少し先に行っていたおじさんが声を掛けてきたから、僕は慌てて側へと寄っていく。
「いらっしゃいませ」
僕が側まで来ると、店員さんが笑顔で挨拶をしてくれる。
「近江様、いつもありがとうございます。お席を案内させて頂きます」
おじさんは、この店にもよく来ているみたいだ。
おじさんに促され、先を歩くようにスマートに前へと出される。
何だかレディーファーストみたいな?
僕は女の子じゃないけど、嬉しいような恥ずかしいような。
店員さんに続いて僕も足を踏み入れた。
お店の中は大人の男女が多くて、僕みたいな未成年らしき人は見当たらない。
緊張して、ついつい後ろのおじさんを振り返る。
おじさんはその度に、フッと口元を緩めて笑う。
そんなおじさんは、いつもの如く圧倒的なオーラで注目を大いに浴びていたけど、おまけに僕まで視線をヒシヒシと感じるハメになってしまっていた。
大人でモデル顔負けの海里おじさんの後ろから、平凡な子どもが似合わない衣装に身を包んでヒョコヒョコ着いて行く姿はどう見えているんだろう…?
ワクワクしていた気持ちも次第に萎んでいって、なんだか不相応で恥ずかしくて惨めな気持ちになってしまっていた。
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