101 / 131
第101話 緊張の二人
そんな中で案内された場所は奥まった場所にある、半分個室の様になっている場所だった。
ドアは無いけど、テーブルは周囲から見えないように囲まれていて店内の音楽が静かに流れている。
他のお客さんの声も少し聴こえるけど、何を喋っているのかまでは分からない。
店内の照明は、ほんのり暖かい色をしている。
この場所なら他のお客さんの視線も感じなくて済むし、おじさんと二人だけなら落ち着ける。
なんて思っていたらそうでも無かった。
お店の人に椅子を引かれてオドオドしながら座る。
テーブルの上には沢山のナイフやフォークにスプーンが並んでいる。
どれが何やら分からない。
そして椅子に座ると、メニューを渡される。
「…」
見てもよく分からない。
しかも看板には2つのコースしか無かったけど、ここには他にも色々書いてあって混乱してしまう。
コース、アラカルト、…プリフィクス?
僕が混乱しているのが分かったのか、おじさんが店員さんを下げてくれた。
う~ッ、さすがおじさん!
僕は思わずウルッとしてしまう。
それくらいプチパニックだったんだ。
たかが注文とはいえ、こんな高級なお店初めてだから。
日本人だけじゃないくて外国人も多くて、しかも大人ばかりの高級感溢れる店なんて、生まれて初めてだから緊張してしまう。
「結斗は何が食べたい?」
おじさんが優しく聞いてくれた。
「僕はよく分からないから、おじさんが決めて?」
「そうか?なら、コースにしよう」
そういって選んだコースは値段の高い方で、どんな料理が出てくるのか楽しみになる。
「僕、こんなお店に来るの初めて」
そう伝える。
「そう?なら良かった。ここの店は本当に美味しいんだよ。ワインの質も良いしね」
「ワインの質は分からないし、僕は飲めないよ」
おじさんは思い出した様に笑う。
「そうだったな。未成年だった。雰囲気でつい…」
片方の眉をチョイと上げながら、おじさんが口を開く。
「初めてのデートだから、俺も特別な気持ちなんだよ。だからちょっと緊張してるのかもな」
おじさんが緊張?まさか…!
「何度も言うようだけど、結斗とのデートはワクワクするしドキドキする。気持ちも幸せで溢れてる。こんな経験は初めてなんだぞ?本当だぞ?!」
おじさんが整った顔を真面目に引き締めた。
「信じてくれるか?」
あんまりにも格好良すぎて、意識が飛びそうになる。
「結斗…」
2度も言われて信じないわけがない。
「うん…信じるよ」
その言葉を聞いて、おじさんが満面の笑みを浮かべたから僕もつられて笑顔になった。
ともだちにシェアしよう!