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第102話 突然の訪問

メニューは決まった。 飲み物はワインが飲めないから僕は、パイナップルジュースを頼んだ。 大好きなんだよね。 注文を済ませると、店員さんが食前酒と僕の為にミネラルウォーターを運んで来てくれた。 「ありがとう」 おじさんがニッコリお礼を言うと、店員さんも笑顔で応える。 ナプキンを膝へと下ろすおじさんを見て、僕も慌てて真似をする。 高級店に来てのドキドキもあるけど、それ以上にマナーが分からないから余計にドキドキしてるのかも? おじさんが食前酒を飲んだので、同じ様にしてみる。 緊張していたからか、喉が渇いていたみたい。 染み渡る感じがする。 飲んだら気持ちも少し落ち着く。 だけど、テーブルの上に置いてある食器の数に表情も曇る。 一体どれをどう使えばいいの? 「結斗、カトラリーは外側から順番に使えばいいから。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」 「う、うん!」 おじさんに優しく微笑まれて、僕は頷いた。 「それにしてもスゴいお店だね?僕、こんなお店初めて来たよ」 家族で行くとしてもチェーン店か、個人経営のお店位。 おじさんが過去に翔と一緒に連れて行ってくれた店も素敵な所ばかりだった。 子どもにも入りやすい店で、こんなに高級店では無かった。 大きくなってからは、僕が手料理を振る舞っていたから尚更だ。 「おじさんは、よく来てるんだね?」 「ここのホテルは知人の経営でね」 「さっきの人?」 ホテルで挨拶をしてくれた初老の男性を思い浮かべる。 「あの人はこのホテルの支配人。オーナーは別だよ」 「そのオーナーと仲良しなんだ。だからホテルに泊まってあげてるんだね」 「いやいや、仲良しじゃない。腐れ縁ってヤツなんだけどね。ホテルの質が高いのは事実だから使ってやってんだよ」 「使ってやってるだ~?!誰がそんな偉そうな事を言ってやがるんだぁ~?」 突然低い不機嫌な声が聞こえてきて驚いて顔を向けると、出入り口の所へ見知らぬ男の人が立っていた。 「ッ?!」 だ、誰…?! 思わず、おじさんを見た。 驚く僕を余所に、おじさんは余裕の表情だ。 「オーナーは暇なのか?」 オーナー?この人がホテルの経営をしている一番偉い人? 「暇なワケがあるか!忙しい合間を縫って顔を拝みに来てやったんだよ」 そう言った男の人は、その後おじさんでは無くて僕の顔を見て満足そうに笑った。

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