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第104話 おじさんの幼馴染み
改めてその人は、姿勢も正しく僕に向き直ると自己紹介をしてくれた。
「初めまして結斗君。俺の名前は榊和真って言って、このホテルのオーナーをやってるんだよ。これからヨロシクね」
バチンッとウィンクをされて目をパチパチさせると、おじさんが直ぐに榊さんの頭を小突いた。
「イテッ、何すんだよ」
「ウィンクするな。結斗を見るな」
「それじゃぁ?自己紹介出来んだろうが」
「しなくていいから、早く出て行け」
榊さんが、ブーッと不満そうに口を尖らす。
いい年齢をした男の人がそんなことをしても…と普通なら思うけど、海里おじさん同様に若々しさ溢れているから却って魅力的ですらある。
海里おじさんには負けるけどね。
恋人欲目でも何でもない。
二人のやり取りを見ながら、そんな風に思っていた。
「次から泊めないからな、バカ野郎」
「客を選んではいけない。ホテルマンとして一から学び直せよ」
おじさんにそう言われて榊さんは、反省の色も見せずにベッと舌を出した。
年齢相応の男の色気を滲ませている人が、子ども染みた仕種を見せた。
「さて、近江が冷たいから退散するかな」
ヤレヤレと芝居がかった風に榊さんは両手をヒョイと出して肩を竦めた。
「それじゃぁね、結斗君。またね!」
「さっさと行けよ」
口笛が出そうな様子で榊さんは手を振りながら、個室を出ていった。
チラッとおじさんを見ると、リラックスした顔で榊さんを見送っていた。
それを見て、二人は仲良しなんだなぁって、思った。
席に着いたおじさんに、笑顔で訊ねる。
「榊さんと仲が良いんだね」
「あ~まぁ幼馴染みだからな。仲が良いというか、お互いの小さいときからを知ってるからな。しかも大学まで同じだったから、嫌でも顔を合わせる」
忌々しそうに溜め息を吐いたおじさんだったけど、言葉の端々に温かみを感じる。
「何だ?」
僕が思わず笑うと、ばつが悪そうにおじさんが眉間に皺を寄せた。
それから残りの食前酒をグイッと飲み干した。
「失礼致します」
するとそこへ店員さんがやって来た。
「こちらオーナーからでございます」
シルバーの入れ物からワインのボトルが覗いていた。
丁寧に出されたワインのラベルを見せて、おじさんに確認を取っている。
僕にはワインなんて、ちんぷんかんぷんだけど、おじさんは嬉しそうに頷いた。
「オーナーにお礼を言っておいて」
やっぱり仲良しなんだね。と思いながら視線を送ると、気がついたおじさんが「良いワインがタダだから嬉しいだけ」と言い訳をした。
隠しても分かるんだからね!
今度榊さんに会ったら、おじさんの小さい頃の話しとか聞けたらいいなぁと思った。
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