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第106話 さっぱり全く
「ポワソンでございます」
それから出されていたパンを食べていると、魚料理が運ばれて来た。
白身の魚に美味しいソースが。
どうやってこのソースを作っているのか、とても気になる。
向かい側では、おじさんがワインを飲んでいてとてもグラスの持ち方が綺麗だ。
大きな手と長い指がグラスに添えられていて、それを唇につける。
飲む度に、喉が上下していた。
豪華な場所での食事は、普段の僕を異世界へと誘ってぬれているようだ。
この時間は、夢なのかもしれない。
それだけ贅沢なひととき。
魚料理が終わると、シャーベットが出されてビックリする。
「え。ねぇ、おじさんッ!」
「どうした?」
僕がコソッとおじさんに声を掛ける。
「もしかして、これで終わり?」
そうだったら残念だ。
すると、おじさんがクックックッと可笑しそうに笑いを溢した。
「まだ終わりじゃないよ。ソルベっていって、口直しの為のシャーベットだよ。次はヴィアンドっていって肉料理だからね」
「そ、そうなんだ~。もう終わりかと思ったよ」
僕は安堵の溜め息をついた。
それから僕が落ち着いた頃に肉料理が運ばれて来た。
料理の説明を受けたけど、よく分からない。
ただ、美味しいという事だけは間違いなかった。
「柔らかいッ!美味しい!」
「それは良かった」
僕が興奮気味に言うと、おじさんはニコッと満面の笑みを浮かべた。
この顔に僕は弱い。
包み込んでくれるような笑み。
目が暖かさで満ち溢れている。
あぁっ…僕を見守ってくれているんだなぁって。
食事中にも関わらず、僕はおじさんに見惚れながら残りのお肉を完食した。
「結斗。チーズは要るか?要らないならデザートを持ってきて貰うよ」
チーズは好きだけど、もうお腹には入りそうになかった。
残念だけど要らないからと首を振って遠慮した。
「フロマージュは要らないから、アントルメで」
…何?
おじさんがお店の人に言う言葉、さっぱり全く分からなかった。
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