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第107話 ごちそうさまでした
不思議な会話に思わず首を傾げていた僕に、おじさんが笑った。
「あとはデザートをお願いしたからね」
あぁ、デザートの事を言っていたんだ。
漸く謎を解決して、次に出てくるデザートを楽しみに顔が綻ぶ。
「おじさん、本当にこのお店スゴいね。なんだか僕は場違いだなぁって思って緊張してたけど、料理は文句なく美味しいし、雰囲気も落ち着けるし」
「場違い?何でそう思ったんだ?」
「何言ってるの!?僕みたいな子どもは誰も居ないんだよ?」
この店には、大人しか居ない。
「だから落ち着かなかったけど、榊さんがオーナーで、おじさんと幼馴染みって分かったからかな?今は料理もお店自体も楽しめてるんだ」
「楽しめてるなら良かったよ」
僕が本当に楽しんでる事が分かったんだと思う。
おじさんが店の仄かな灯りに綺麗な笑顔を浮かべた。
「アントルメでございます」
それから、お店の人がワゴンを押して現れると、その上には沢山のデザートが用意されていた。
「好きなものを幾つでも選べばいいよ」
驚きと感動に目を輝かせていると、おじさんがクスッと笑った。
「え、いいの?…じゃぁ~コレと…」
好きなものを好きなだけと言われても無茶だ。
そんなに沢山食べられないよ。
だけど、どれも魅力的で誘惑には勝てそうもない。
で、お腹と相談した結果『タルト』と『ムース』を選んだ。
フルーツの盛り合わせも添えられて、果物大好きな僕には最高だった。
「本当に美味しい。こんな高級なお店初めてだよ」
僕がそう言うと、おじさんが嬉しそうにした。
「ここでも結斗の初めてを貰ったね」
そうだ。
こんな事さえも、おじさんとの初めてなんだなぁ…嬉しい。
それから運ばれたコーヒーと『プチフール』といって小さなケーキを口へと運びながら幸せで贅沢な時間を楽しんだ。
おじさんと僕は、あまり話をしなかった。
高層階から見える宝石にも似た夜景を見ながら、僕は顔を赤くして。
何故なら、おじさんが僕を熱い視線で捕らえて離してくれなかったから。
あんまり見ないでよ。
そう言いたかったけれど、半分は嘘。
おじさんがその視線を向けてくれている間は、確実に僕の事しか頭に無いんだ。
視線の熱さで気持ちが分かる。
求められてるのかな?って。
頭だけでなくて、体も何だか…。
とうとう僕は夜景から視線を外してしまった。
視線が絡まる。
「ごちそうさまでした…」
耐えられなくなって、僕はそう言いながら視線を下へと向けた。
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