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第110話 ニャンコ
まぁ…おじさんが喜ぶなら、猫耳くらいどうってことない。
見るのは、おじさんだけだしね。
と、心を叱咤してみる。
僕は猫耳カチューシャを手にして、頭に載せてみた。
カチューシャなんて初めてだから、載せ加減がよく分からない。
これで良いのかな?
「ど、どう?」
おじさんに訊いてみる。
まぁ、似合っては無いだろうけど。
「…」
沈黙。
何とか言ってよ、おじさん!
この恥ずかしい時間をどうにかして欲しい。
「おじさん?!!」
突然ガバリッと抱きつかれて驚きに声を上げる。
「ん~っ」
おじさんが甘い溜め息をつきながら頬を擦り寄せてくる。
そしてスリスリ。
されるがままで居ると、おじさんが漸く体を離してくれた。
「結斗、可愛いよ」
大きな掌で顔を包み込まれて、うっとり囁かれると恥ずかしさがハンパないんですけど…。
「なんだ、この可愛いニャンコはッ!」
なんて言いながら今度はキスしてきた。
啄むようなキスを何度も繰り返される。
全く深くは無いので息苦しさとかは無いけど、とにかくしつこい。
「ううっ、もう離してよ~っ」
あんまりにもしつこいから根を上げると、おじさんが漸く離してくれた。
僕がカチューシャを取ろうと手を伸ばすと、止められる。
「ちょっと待って、結斗」
「えっ、何で」
そう言って、おじさんが取り出したのはスマホ。
カシャッ
「わっ」
スマホを向けられたと思ったら、すかさずカメラで猫耳姿の僕を撮ってきた。
「な、何で撮るの?!恥ずかしいから撮らないでよっ、消してー!!」
カシャカシャ、カシャッ
連続でシャッター音がして、僕は慌ててスマホに飛びつく。
だけど悲しいかな、僕の身長は成長期の期待を裏切っている。
モデル並みの高身長な海里おじさんの持つスマホには届くはずもなく、腕を上げて逃げる相手にピョンピョン飛びつく姿さえシャッターを押される始末だ。
「良いよ~結斗!」
「も、もうっ!!」
怒りの僕とは反対に楽しくて仕方無さそうに体を翻しながら部屋中を移動しては、僕を撮っている。
「あっ!」
そこで漸く気がついた。
スマホなんて放っておいて、今すぐカチューシャ取れば良いだけじゃないかって。
どうして気がつかないかなぁと自分の脳みそを恨んでやりたい。
僕がカチューシャをエイッと頭から取ると、おじさんの表情が一気に萎えてしまった。
そ、そこまで残念がらなくても…。
反対に僕が悪いことをしたような気がした。
いや。僕は全く悪くは無いですから!
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