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第111話 写真

「可愛かったのに」 おじさんが唇を尖らせながら言った。 普段の…いや、今までの僕の中でのおじさん像が最近崩壊してきたのは本当で、こんなに子どもっぽいなんて知らなかった。 イケメンで仕事が出来る大人。 そんな恋人は、今は微塵も無い。 あ、イケメンは変わらないけど…。 「猫耳姿の結斗はサイコーに可愛かったのに、何で取るのかなぁ?」 心底残念がっている。 「そんな事言われてもッ!だって恥ずかしいのに、おじさんが写メ取るんだもん!!」 「結斗の可愛い姿を記録に残さなくてどうする?!小さい頃から写真や映像に残してきてるだろ?それと一緒だよ」 「い、一緒じゃないし!!」 思わず全力否定してしまった。 「もう高校生だよっ。子どもの頃のアクシデント映像とは違うんだから~!こんな恥ずかし記録は要らないよ!」 「う……」 おじさんが視線を逸らしながら声を発した。 「何?」 急に怪しい。 「何でもないよ~♪」 に~っこり。 とてつもなく笑顔を返されて逆に怪訝に思う。 だけど、おじさんは眩しい笑顔をこちらに向けるのみ。 「結斗。もう撮らないから、いつもの可愛い顔に戻ってくれ」 そう言われては、戻らない訳にはいかないじゃないか。 僕が呆れた表情になると、おじさんが苦笑した。 「俺は写真とか撮るのが好きだから、許してくれ、…な?」 あ。そういえば…。 小さい頃からおじさんは、カメラを向けるのが好きだったと思い出した。 子煩悩なおじさんは、よく翔にカメラを向けていた。 いつも翔と一緒に遊んだりしていた僕も自然と写り込んだり、ついでにと色んな様子を撮ってくれていた。 しょうがないなぁ~。 「もうっ!」 そう言って僕がホッペを膨らませると、苦笑したおじさんが『こっちにおいで』という風に両腕を広げた。 クスッ 思わず笑ってしまい、僕は直ぐにおじさんを許してしまった。 「結斗、ごめんな」 「もういいよ」 大きな胸に抱かれて、おじさんの匂いを嗅げば、全てはどうでも良くなる。 安心する暖かさに、僕はもう一度猫耳付けてあげても良いなぁ…なんて思っていた。

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