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第112話 連絡

抱き締められて、心地よさにウットリしていると、おじさんのスマホが振動し始めた。 「…おじさん鳴ってるよ?」 おじさんは知らんぷりしてたけど、あんまりにも鳴るので着信だと思って僕は言った。 「あ。切れた」 「大した要件じゃないだろ」 ヴー、ヴー、ヴー おじさんが言うと同時に、再び鳴り始める。 「ほら、出ないと!もしかしたら仕事の事かも!!」 緊急事態に違いないと僕の方が慌ててしまう。 おじさんは渋々スマホ画面を確認すると、眉間に皺を寄せた。 「…美奈?」 美奈。 おばさんの名前だ。 「…ワルい、ちょっと待っててくれな」 そう言った海里おじさんは、最後まで乗せていた僕の肩から手を離した。 温かかった肩が急にひんやりと冷たく感じて、何となく肩に視線を向けた。 それから、おじさんがスマホを耳へと当てる姿を見つめた。 何歩か移動して窓の方へと顔を向けてから話始める。 「ん、どうした?」 さっきまでとは声の感じが違う。 「俺か?いや、外。今、結斗くんと食べに来てる」 おじさんが僕の前で話をするいつもの声と違った。 「それで?…そうか」 夜景の見える大きな窓ガラスには、おじさんの顔が写り込んでいて僕に見せるのとは違う顔をした。 「あぁ…そうだな」 夫婦の会話だ。 僕には、そう思えた。 愛し合って、家族になって…夫婦になって。 僕には永遠に訪れない関係を二人は築いてるんだ。 そう思うと、改めて心の奥に少し痛みを感じた。 いけないと思いながらも、この関係を少しは理解したはずなのに? 「分かった。直ぐに行く」 おじさんは通話を終えると同時に振り返ると、僕に申し訳なさそうに表情を曇らせた。 「結斗、すまない」 長い足で側まで来ると、僕を見下ろした。 「これから直ぐに帰らないといけなくなった」 「えっ、ど、どうしたの?!」 「アイツん所の爺さんが危ないらしい」 本当に緊急事態だったから、僕の気持ちも焦燥感に捕らわれる。 「本当はここで、ゆっくりしたかったけど帰ってアイツと実家へ行くことになったから。…悪いな、結斗」 おじさんは心底申し訳なさそうに、眉をしんなりさせた。 「本当に残念だけど…、仕方ないよ」 僕も少し悲しい。 だけど、お祖父さんが大変なんだから、そんなことは言ってられない。 「それよりも!早く帰らないと?」 慌て始める僕に、おじさんが一度だけギュッと抱き締めてくれた。 それからおじさんは、側にある榊さんからのプレゼントと最低限の荷物を手にする。 「よし、帰るぞ結斗」 「うん!あ、服が…っ!」 歩きだしつつ残された他の物に目をやる。 「大丈夫だ。家に送って貰うから」 言いながら、おじさんは僕にも榊さんからのプレゼントを素早く纏めて箱を手渡してくれる。 「さすがにコレは置いていけないからな」 なんて急ぎつつも肝心な事だけはキチンとしている。 親友からのプレゼントだもんね。 おじさんの事を素敵だと改めて思った。 最後にチラリと部屋を振り返りながら僕は、おじさんが開けてくれているドアからすり抜けた。 こうして僕とおじさんの初めてのデートは、意外な終わり方となった。

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