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第113話 お母さんと僕

おじさんの運転する車は、渋滞も何も無かったために、あっという間に自宅へと辿り着いた。 正確にいうと僕の家に…、だ。 「結斗。本当にすまない…。せっかくの初デートが、」 助手席に乗ったままの僕へと心底申し訳なさそうに言うので、首を振って言葉を遮った。 「ううん。仕方ないもん。それよりも早く、翔のおじいちゃんの所へ行ってあげて」 初めてのデートがこんな形で終わりなんて淋しいけれど、人の命に関わっている事だから。 おじさんを責めるつもりも何もない。 とにかく早く行ってあげて欲しいのが、今の正直な気持ちだった。 僕にも大好きな、おじいちゃんとおばあちゃんが居るから。 「これから翔を連れてアイツを迎えに行くよ。それからあっちへ向かうから」 僕が頷くと、おじさんが顔を寄せてくる。 ソッと目を閉じると、唇に暖かいものが触れた。 おじさんが軽くキスをしてくれた。 目を開けると、やっぱりおじさんが申し訳なさそうにしていた。 「行ってくる。また連絡するから」 「うん。気をつけてね」 おじさんにそれだけ言うと、僕は車から降りた。 助手席のドアを閉めると、おじさんは少し微笑んでから車を自宅へと向けた。 自動でガレージが開いて、おじさんは僕の方は見ないままで、車は入ってしまった。 ガレージが今度はゆっくりと閉まっていった。 何となく立ち尽くして見ていたけど、そのままで居てもどうしようも無いから、僕は自分の家へと入る。 おじさんの家とは違って、普通の大きさの一般的な間取り。 玄関を開けると、リビングの灯りがついていた。 靴を脱いで手と口を綺麗にしてから、短い廊下を進んでドアを開けた。 「あら、お帰り」 「…ただいま」 お母さんがソファに座って録画していたものなのか、テレビでドラマを観ていた。 仕事の疲れも見せずにカラッと言うので、僕は何となく笑った。 疲れてるはずなのに、お母さんはいつも元気でスゴいなぁ…。 「ご飯は近江さんにご馳走になったんでしょ。お礼は言ったの?」 お母さんはリモコンの一時停止を押した。 画面は今人気の若手俳優さんが何かを言おうとした口を開いた間抜けな所で止まってしまっていた。 おじさんなら、どんな顔でも状況でもカッコイイのになぁ…。 「…あ、うん」 僕がテンポ悪く頷くと、お母さんが首を少し傾げた。 「それとも食べてないわけ?」 僕は盛大に首を横へと振って否定した。 「食べたよ!ご馳走して貰ったよ!!」 今日は僕とおじさんの初めてのデートだったんだ! 「高級なホテルのお店でね、ご飯食べたんだよ!しかも凄いんだよっ、そこの社長さんがおじさんと友達でねっ!」 「へぇ~さすがね近江さん。ところで、その服どうしたの?」 そこで僕の服装に気がついたお母さんが聞いてきた。 「あ、そうだった。コレはね、おじさんがプレゼントしてくれたんだよ!」 嬉しくて自慢気に言うと、お母さんはキョトンとした。 「何で?」 何でって、それは…。 「まぁ良いわ。昔から結斗を可愛がってくれてたものね~。またお母さんからもお礼を言っておくから」 そう言うと、お母さんがリモコンを手にした。 「結斗には甘いみたいだしね~。これからも近江さんにお世話になるんだから、しっかりお手伝いするのよ?」 念を押したお母さんはドラマの続きを観るべく、リモコンのボタンを押した。 「僕…もう寝るね」 疲れたからと言うと、お母さんは「おやすみ」と優しく返してくれた。

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