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第119話 自惚れていました

デコピンされた箇所を赤くしたまま、僕は国見くんと別れた。 自分からは見えなかったけれど、国見くんの視線がおでこに何度もいくので、きっと赤いのだろうと思った。 実際、少しズキズキするもん。 こんな時、おじさんなら優しく撫でてチュッとキスを落としてくれたはずだ。 何よりデコピンした国見くんを怒っているだろうし、そもそも国見くんと二人きりにさせないかも? そこまで思ってから、僕はどれだけ海里おじさんが自分だけを特別扱いしてくれているのだと確信しているかを感じた。 僕は相当、自惚れているのかも? 歩きながら、ふと思った。 視線は感じない。 それもそうだ。 隣に国見くんが居ないのだから、地味な僕がひとりで歩いているところを誰が注目などするものか。 そういえば、おじさんと二人の時も国見くんとは比べものにならないほど注目を浴びてきた。 それなのに、最近は今日みたいにソワソワしなくなった。 第一に、ソワソワ具合いからして全く違う。 おじさんとのソワソワは…ふたりで一緒の嬉しさや楽しさ、モテるんだなぁ~やっぱり、カッコいいなぁという気持ちや僕の恋人なんだよ!という自慢したいけど、何処かに残る気恥ずかしさ。 なにより、おじさんが包み込んで守ってくれる安心感の中で感じてきた視線だったから…。 そこまで思うと急に肌寒さを感じてしまう。 無意識にスマホを探ってしまう。 いつもは落とさないように鞄の中へ入れている僕だけど、今は着信があれば直ぐに取れるようにしている。 おじさん、今は何してるの? 翔のおじいちゃん、大変なのかな? 複雑な気持ちをもて余しながら、僕は一歩ずつ教室を目指した。 いつもは何でもない階段も自分の気持ちが沈んでいるせいか、長く感じる。 漸くの思いで教室へ辿り着くと、僕の姿を見つけた陽くんが「あっ!」と顔を明るくして迎え入れてくれた。 「おはよ、結くん!」 「おはよ~陽くん。間に合った~」 僕が椅子に座って安堵の溜め息をつくと、陽くんが机に両手をついて乗り出してくる。 「こんなギリギリで来るなんて珍しいね。寝坊?」 「えへへ…。まぁ、そんなところ」 僕が曖昧に返事をすると、陽くんがホッとする表情を見せた。 「そろそろチャイムが鳴るから、僕戻るね」 「うん。また後でね」 そう返事をすると、陽くんは自分の席へと戻っていった。 それから直ぐにチャイムが鳴って、担任の先生が姿を見せてHRが始まったけど、僕の頭の中には内容が全く入って来ない。 「…ハァッ」 気がつくと溜め息をついていて、慌てて圧し殺した。 別に永遠の別れでもないのに、駄目だダメダメ。 おじさんとは何日かすれば、直ぐに会えるんだ。 翔のおじいちゃんこそ…なのに僕は薄情な人間だ。 どちらかといえば、その反対に居たと言える僕が、今だけはこんな嫌な人間になってる。 こんな僕だと、おじさんも嫌いになるよね…。 よし!こんなの僕じゃない‼ 気持ちを切り替えて、いつもの僕に戻る‼ そして、悲しみと疲れを纏って帰ってきたおじさんを優しく出迎えて包んであげるんだ。 いつも、おじさんが僕にそうしてくれていた様に。 ちょっと気持ちが改まると不思議だ。 視界が開けていき、僕の中が自然とポカポカしてくる。 そうしているとHRも終わり、先生が出ていく。 僕はスマホを取り出すと、フォルダを開く。 そこには、おじさんが笑顔でこちらを見ている画像がある。 僕のお気に入りの一枚。 「気をつけて帰ってきてね」 そう呟いて、僕はスマホを閉じて鞄の中へと入れた。

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